②何が“運命”だよ!

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アポを取ってから1週間後。 美容室の事務所で打ち合わせをすることになった。 アポ取りの電話の段階で、アイツの声は弾むようだった。 『えー!たっちーテレビ局の人だったんだー。だからガムテとかビニテとか持ち歩いてるんだー。』なんて、合点が行ったように1人で納得してた。 問題はそこじゃなくて、取材受けてもらえるかどうかなんだけどな。と、思いながら、話していると 『たっちーのお願いなら聞いてもいいけど、やっぱりさ一1回、その担当ディレクターさんに会ってから決めて良い?電話でアシスタントさんに言われてもなー』なんて、軽くお断りモードで話してきた。 だから、きっと密着系の取材は勘弁なんだろうと思ったんだが……。 「なるほど。いいですよ。」 資料に目を通し、嶋佐さんの説明を受けた出口は、優しい笑みを浮かべて言った。 「ただ、僕もお客様あっての仕事なので、訪問先のお客様が承諾してくださらないと難しいかな…って言うところはあって…。タイミングは、難しいかもしれませんよねー。」 顎に手を当てながら、真面目に話している姿から、ちゃんとお客さんのことを考えてる雰囲気が伝わってきた。 「でも、深夜営業の方は、若い人が多いので、あまり問題ないとは思いますよ。そっちから、決めちゃいますか?」 「そうですね。お客様からのご承諾は」 「ああ、僕、聞いておきますよ。」 「ありがとうございます!助かります。」 「いえいえ。」 なんか、小慣れてる。嶋佐さんとの話がどんどん進んでいく。 俺はただそばでメモを取ったり、タブレットに日程を記入してるだけ。 「深夜のお客さんはどんな人が多いです?」 「残業で疲れた人が来ますね。テレビ局の人もくるかなー。」 そう言って、俺を見る。 俺は休みの日の昼間にしか美容室なんか来ねーよ。 「カットとヘッドスパは、人気のコースですね。」 「出口さんは、いつ休んでるんですか?」 また、俺を見た。 「僕は、お客様と接してる時が、癒される時間なんで、うち帰って寝れればそれでいいですねー。」 嶋佐さんは、メモをとりながらVTRの構成をどんどん頭の中で作っていくようだった。 その間、出口は俺をちょこちょこ見てきて…。てか、なんで、そんな見てくるんだよ! 「出口さんの仕事のやりがいは?」 「僕のカットで、お客様の表情が明るくなるその瞬間があるたびに、良かったって思って、それがやりがいかなと。思ってます。」 今度はじっと見られ…てるよな。視線バシバシ感じるんだよ。 「今度初めてカットするお客様がいて。カット終わった後、どんな顔してくれるだろうって今からとても楽しみなんです。」 恐る恐る視線を合わせるとフッと微笑んだ。 いやいや、怖い怖い怖い!!
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