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自分より倍近くある身長差の男が現れた。一瞬熊のように見えたその大男は一度舌打ちをした。
「あちこち逃げ回るんじゃねぇぞ……」
ため息をついたあと、大男は藤崎を見て失笑する。
「まさか、こんなちっせぇガキに助けを求めたのか?」
嘲笑された少女は黙って大男を睨んでいる。大男はそんなものを気にもせず、藤崎に告げた。
「おいガキンチョ、悪い事は言わねぇ。その女に手を貸そうとか思うんじゃねぇぞ」
笑いながら告げた大男の警告に、藤崎の身は強張る。それはハッタリではないのだろう。
心臓の鼓動が早くなり、呼吸のひとつひとつが無意識に震える。これらすべてが、男から放たれている威圧に恐怖し生まれたものだと、平和ボケしていた藤崎でもわかっていた。
自分の身を守る為ならば大人しくしていた方が良いのだろう。
藤崎龍二は、これまでまともに喧嘩をした事がなかった。特に正義感とかもあるわけでもなく、腕っぷしの問題になったら勝つ以外の方法でなんとか逃れるタイプの人間だった。
では、彼の言うことに従うのか。
その答えもまた違うと、藤崎は判断した。
「この子は渡さない」
自転車を降り、少女の盾になる。確かに男からの威圧は怖い。だからといって、少女がこれから連れ去られ何かをされてしまう事を見過ごせるほど、自分の心は利己的ではなかった。
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