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第1話
眼前に真っ白な天井が広がっていた。
小鳥の囀りが気持ち良く。カーテンから漏れる陽が眩しい。その白い部屋は眩い世界を藤崎に見せたが、自然とそれが心地よかった。
だが、あれはきっと、夢ではない。
腹部に残る痛みや、それを確認するときに気がついた、緑色の患者服がそれを物語っている。
「昨晩、呼ばれた時は焦ったけど、まぁ元気そうで良かったわ」
やがて、昼間に母親がやってきたとき、呆れながら母は藤崎にそう言った。
「ごめん、母さん……」
「いいわよ。寧ろ誇らしいくらいだわ」
お見舞い品の果物と暇潰し用のゲームや携帯端末を藤崎に渡しながら、母親は言った。
「しかし人助けなんて、あんたも良い子に育ったわねぇ」
「別に……人の為に生きろといつも言っているのは母さんだろ」
母に撫でられ、こそばゆくなった藤崎は母親の手を払いのけ、言い訳を返した。
その様子に満足そうに笑みを浮かべた母親は、腕を組み呟いた。
「なら、もう一仕事、頑張ってもらおうかしらね」
「もう一仕事?」
藤崎が聞き返すと、母は隣のベッドに視線を向ける。
「龍二が助けたあの子……身元がわからないの」
声色が変わって言われた言葉に、藤崎は聞き返す。
「えっ……わからないって……」
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