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彼女は長座位のまま、目の前を見つめてる。綺麗に置かれた人形のように、指先ひとつ、瞼すら動かさず、じっと座っていた。
動くのは風に誘われ揺れる髪のみで、翠緑の輝きがたなびく様は、まるで草原のようで、藤崎はほんの少し時間を忘れて彼女をじっと見ていた。
「あの……」
静寂を破ったのは、少女の方だった。
「なにかごようですか?」
精巧に瞳だけを藤崎に向け、尋ねる。
彼女の声にドキッとした藤崎は、動揺しながらも答えた。
「いや、その……身体の方は大丈夫かなって……」
「えぇ……まあ。数日は様子を見る為に入院しろと言われましたが、大した傷ではないそうです」
「そりゃあ良かった」
藤崎が相槌をうったあと、また静寂が訪れた。
気まずい。これはとても気まずい。
ひとまず名前を尋ねようと藤崎は考えた。その為にまずは、自分から身元を明かす。
「そういえば自己紹介がまだだったな。藤崎龍二って言う。そこの六中の中二だ。君は?」
「……名乗るほどでもありません。僕はただ、君を巻き込ませてしまっただけだから」
彼女は淡々と答えた。
それっきり、再び蝉の鳴き声がよく聞こえるようになった。
掛ける言葉がないかと頭を回すが、なかなか思いつかない。そんな時、小さな腹の音が聞こえてきた。
「腹へってるのか?」
藤崎は少女に尋ねる。
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