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慟哭
短い夏が過ぎ、町並みの木々が色づき始めた。
イチョウ並木を二人で歩いていた時のこと…。
『どうしたの?』
『ううん…何でも…』
『何かあったの…?』
『ううん…』
どう見ても普段の彼女ではなかった…。
気のせいではないのは明らかだったけど、
それ以上無理に聞く気にはなれなかった…。
そして…。
出逢いから3か月…
彼女の誕生日が数日後に訪れた。
前々に買っておいた、当時の自分にとっては
バイトして頑張って買ったプラチナリング…。
(喜んでもらえるかな…このところ元気なかったしなぁ…)
待ち合わせは出会いの場所と同じ公園にした。
待ち合わせの15分前には来たのだが、
彼女はすでにベンチで佇んでいた。
なんだか切なそうな表情…。
落ち葉がひらひらと舞うたびに顔を向け、寂しそうな笑顔で見つめていたのだった。
しばらく声をかけるのを躊躇うほどに…。
意を決して声をかける…。
『早いね?待った?』
『ううん、平気!』
(よかった、さっきの物憂げな雰囲気とは打って変わった笑顔だった…)
しばらくベンチで話し込む…。
そして、おもむろにポケットからプレゼントの指輪を取り出す。
『はい、これ!』
『私に?』
『誕生日じゃない♪』
『そうだね!ありがとう〜。』
言葉とは裏腹に複雑な表情を浮かべているようにも見えた…。
なかなかはめようとしない。
「どうし…」
尋ねようとした時だった。
ぽちゃ〜〜ん!!
一瞬何事かと呆気にとられてしまった…。
あろうことか、今渡した指輪を池に投げ入れたのだ!
『ちょっ!?何やってんだよ?』
『わ、わたしには…もらう資格なんてない…
ご、ごめんなさい…』
と言い残すと足早に走り去っていった…。
なにがなんだかわからない…。
怒りの気持ちをどこに向けていいのかも分からず
ただ、その場に立ちつくすだけだった。
そして…我に返り、連絡をとろうとしても
いっこうに繋がらない…。
理由も何もわからぬまま…
ひと月が過ぎることとなる…。
悶々とした日々を過ごしていたある日、
彼女に出会った頃のようにまた、
見知らぬ番号で携帯に
電話がかかってきたのだ…。
『もしもし?○○さんですか?』
『はい、そうですけど?』
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