指輪

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指輪

『私、○○の幼馴染で友達の○○と申しますけど…』 『えっ!?はい、どうしたんですか?』 『○○から絶対言わないで!って止められていたのですが…』 『えっ!何です? 教えてもらえます…?』 『あなたと公園で最後に会う前、あの子は精密検査を受けていたんです。だけど、状態が芳しくなかったんです。』 『どういうこと?』 『というのも、あの子、小さい頃に病を患い、重い後遺症が残ってしまっていたんです。長くは生きられないかもしれないとも言われてました。しばらく発作もなく、人並みに生活できていたようなんですが…ごくたまに発作が起きていて…』 『えっ…うそ、そうだったんだ…。』 自分の無知さに腹が立った…。 一緒にいた時には、気づいてやれなかったこと…。 時折感じたアンニュイな表情。 実は無理させていたんじゃないか…。 自分の前では気丈に振る舞っていたのかもしれない。 今までのことが脳裏を駆け巡り、 頭の中がぐちゃぐちゃになっていった…。 『そして、この間、重い合併症が再発したんです。回復の見込みがなければ、もって2ヶ月とも言われています。すでに1ヶ月経っているのですが、あまり経過は思わしくないそうです。』 『ってことは、へたしたらあと1ヶ月ってこと…?なぜ、黙っていたの!?なんで!!』 友達に罪はないのだが、余裕のなかった俺は、あまりの予想外のことに、憤慨してしまっていた…。 『ごめん、君に言うことじゃないね…怒鳴ってごめん。』 『いいんです。気持ちは分かりますから…』 『どこに入院しているの?』 『○○総合病院です。』 『わかった。伝えてくれてありがとう…』 ガチャ 電話を切った後、いったん冷静に考えてみた…。 あれ?今の番号…。 知らない番号だけど見覚えある気がする。 履歴を見てみる。 自分の番号と下一桁1つだけの違い! そういうことだったのか…! あの日、なぜ自分に偶然電話がかかってきたのか、 なぜ彼女の友達が自分の番号が分かったのか… 全てが繋がった。 そしてあの日からの日々を振り返る。 彼女の今までの言動、時折見せてた儚い笑顔。 気がつけば、涙が止まらなかった…。 そして、自分の不甲斐なさを責めていた…。 後日、冷静を装って面会に向かった…。 彼女の病室をノックする…。 ガチャ! お互い目を見合わせる…。 『…え…なんで…?』 しばしの沈黙の後、彼女に言った。 『○○の友達が教えてくれたんだ!』 『ぜ、絶対言わないでって言ったのに…』 友達を見つめて彼女が言った。 気まずそうに佇む友達…。 『彼女を責めないで?俺たちのためにしてくれたことなんだ。 俺は彼女に感謝している。 きっと知らなかったら後悔していたはず…。 何も知らないまま、関係がなくなっていたのかもしれないわけだし。』 スーッ…パタン。 気を利かせてくれたのか、彼女の友達は病室を出て行った…。 『聞かせてくれないかな?なんで言ってくれなかったの?』 『だって…。あなたに言ったら、悲しませるだけだし、私の事を重荷に感じることになると思って…。それに、あなたの前ではずっと笑顔でいたかったの。』 『言ってくれたら、もっと力になれたのに…。それに、もっと大切な時間、二人で多く過ごすことができたのに…。』 『ごめんね…私がつらかったの…。言うことであなたが離れていくんじゃないかとか、悲しい思いをさせるだけなんだって思ったの…』 『だからあんな態度を取ったの?嫌われるため?』 『うん、あんな事されたら、きっと怒って嫌いになる。そしたら私を忘れて誰かと幸せになってもらえるかもって…』 『ばか…俺の事分かってたつもりでいたんだろうけど、分かってないなぁ。一時の感情で左右されるほどの気持ちしか持てない男とでも思ってた?あんなことされたら何かあると思うよ? 一瞬、腹が立ったのは事実だけど(笑)』 『ふふ、そうだね!?そんな人だよね…ごめん…』 『気にしなくていいから、ちゃんと養生して元気になって?』 『うん、ありがとう…』 頬を伝う涙がなんだか痛々しかった…。 俺は病室を出ると一目散にある場所へ向かった。 そう、あの公園の池だ…。 晩秋の風は冷たく、水温も低い。 意を決する! 幸い、この池の水深は浅かった。 深いとこでも腰くらいだ。 『あの辺だったか?』 水をかきわけるように進んでいく…。 『ないなぁ…』 見つける方が至難の業かもしれない…。 1時間後。 2時間後。 まだ見つからない。 でもあきらめる訳にはいかなかった…。 体温が徐々に奪われて感覚が鈍くなってきた。 『やっぱり、見つからないのか?』 自分の中でくじけそうになる。 ふいに足が何かを踏む感触があった。 急いで拾いあげる。 『あ…、あった…!』 思わずガッツポーズをしてしまった。 間違いなくあのときの指輪だった。 急いで池から揚がる。 指輪を洗うのはもちろんだが、早くしないと 風邪をひくのは明らかだった…。 こんな時に、風邪でもひいて寝込んだら一生後悔するかもしれない。 急いで、家路についてお風呂に入った。 そして数日後の病院にて…。 お見舞いにやってきた。 容態はあまりよくなかった。 まともに話せたのは1時間くらいだろうか…。 『はい、これ!』 『えっ!?これって…まさか…』 『そう、そのまさか』 『どうしてこれが…?』 『池に入って探し出した。』 『まさか、あの池に?』 『うん。』 『ば、ばか!ば…か…』 言葉途中で彼女の目から大粒の涙があふれた。 『いいんだ…○○だけに贈ったものだから…』 『あ…りがとう…ごめんなさい…。』 『んっ…』 軽くキスをした。 そして傍にいて頭を撫でることしかできなかった。 気の利いた言葉が出てくればよかったのだが。 そして数日後、携帯が鳴る! ○○の友達からだ。 『急いで病院に来てもらえませんか?』 バイトを急遽キャンセルして、急いで病院に向かう…。 最後にあなたと話したがっているからと…。 『最後!?まさか…』 病室に入る…。 彼女の家族もいたのだが、彼女の友達が話を通してくれていたのか、見守ってくれていた。 『分かるか…?』 『う…うん。』 よく聴かないと分からないくらいのか細い声だった。 『これ…本当にいい…の?』 指にはめた指輪を掲げる…。 『うん、ずっと付けていてほしい。』 『あ、あり…がとう』 『あ…なたに…逢えて…よか…った。あなた…の優 しさ…に触れ…られてよかった…。』 『俺も、出会えてよかった…』 『ほ、ほん…と?』 黙って頷く。 『わ、わたし…たぶんもう…だめ…』 『しっかりしろよ!?いつか海外にも行ってみたいって言ってたろ?』 『ご…ごめん…なさい…でも…わか…るの…自分の体…だから…。』 『わ…たしの事は…わす…れ…て…?』 『何言ってるの…?』 『わた…し…は…十分…幸せ…だ…った。あなたに…あ…えた。わ…た…しの分…まで…幸せに…なって…? あ・なた…の幸せ…が…私のしあわせ…なの。』 そう言い残して彼女はそっと目を閉じた…。 そして………。 数時間後…。 彼女は旅立った…遠い場所へ。 君の最後の記憶に残れて誇りに思う。 君が最期に言っていた… 私の分まで幸せに… 空の彼方のどこかで… 君は今もそっと微笑んでいるのだろうか…。 〜Fin〜 あとがき 当初、書くつもりはなかった…。ずっと心に閉まっていた想い。 彼女がたしかに生きていた記憶を形として残しておきたくなったからだ。 これを書いたのも十数年前のこと。 その間に自分はいろんな経験をしたと思う。 苦しいこと、うれしいこと、悲しいこと…。 人は悲しみを背負った分だけ人に優しくできると言うが、人の痛みを分かる人間でありたい。 出逢い…。 いいことも悪いこともある。 でも、そこで得た経験は必ず自分の糧として残ると思う。 あの頃に比べて、強くなれたし、成長できたとも思う。 出会いは偶然ではなく…必然であったって人に思われる人になりたい。 一期一会…。 好きな言葉でもあり、嫌いな言葉でもある。 ひとつひとつの出会いを大切にしたいと思う。 でも、一生に一度だけの出会いにはしたくないから…繋がりを大事にしたい。 誰しも自分の弱さは人に見せたくないと思うだろう。 誰しも心に鍵をした想いを持っいるだろう。 だけど、自分の弱さをさらすこと、心の扉を開けることは決して恥ずかしく思わなくていいと思う。 支えあって理解しあうことだってあるのだから。 失うこともあるだろう…。 傷つけあうこともあるだろう…。 だけど、心の隅に置き忘れた、素直な心を相手に届けよう。 人の温もり、優しさ、温かさ。 人は一人では決して生きていけない。 受け止めてくれる誰かがきっと…いるのだから。
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