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出逢い
あれは俺が20歳の学生の時のこと…
ある夏の晩に不意に携帯が鳴った。
『0☓0−○○○○ー××××』
全然覚えの無い番号。
時間は深夜に差し掛かる頃…
不審に思いながらも電話に出てみる。
『これから死のうと思ってます』
『はいっ!? えっ? 誰?』
『…話を聞いてくれますか?もし、聞いてもらえるなら、○○公園にいます。』
「えっ? ちょっ!」
プー。ガチャ。切れた…。
イ、イタ電か!?…。
それにしてもタチの悪いイタズラだ。
○○公園なら知っている…近くはないが行けないこともない。
もし、本当で俺が行かないことで、誰かが死ぬことになったら…。
明日のニュースで流れでもしたら…
そんなことを考えてしまった。
あー、どちらにしても夢見が悪い…。
く、くそ!行ったろうじゃないの!
居たら文句言ってやろう、居なかったらイタ電ということだし、それはそれでスッキリできる。
自分なりに理由をつけて足早に向かった。
やっと到着…。
電話が来てから1時間は経っていた。
どうせ居ないだろう…。
イタズラに決まってる…。
辺りを見回してみる…。
い、いない…。
だよな、イタ電に決まってる…。
鵜呑みにするなんて、我ながらどうかしてる…。
とんだお人好しだ。
踵を返し帰りかけた時、不意に人影が目に入った。
んっ?
まさかね…。
その時だった。また、電話が鳴る…。
慌てて出てみると、
『嘘!? ホントに来て…くれたんですね…?』
『えっ!』
よく見ると携帯を持った女の子が、こちらを見ながらベンチに座っていた。まったく見覚えが無い。
時間も時間だけに自分らしか辺りにはいなかった。
恐る恐る少し近づいてみる…。
『まさか…君なの?』
『はい。』
同世代か少し下くらいだろうか…。
小柄で華奢、大人しそうなイメージ。
どう記憶を辿ってもやっぱり知らない女のコだった。
かなり焦燥しきった感じで、泣きじゃくったであろう目は腫れぼったく見えた…。
その姿を見て、もし会ったら文句言おうと意気込んでいたはずの自分はどこかにいってしまった。
なにかキツイことを言ってしまったら…と思うくらい悲壮感が漂っていたから…。
意を決してとりあえずベンチに座り、話を聞くことにした…。
名前や年齢そして、なんで、自分に電話してきたのか、だとしたらそもそもなんで番号が分かるのか…。
『適当に電話したんです。出てくれた人に言おうって…。』
なんてはた迷惑な…思わず呆気にとられる。
そしてなんで、死のうと思ったのかを尋ねるが曖昧にしか答えてもらえず、よく分からなかった。
腹を立てながらわざわざ来たはずの自分が、いつの間にかこの女のコに興味を掻き立てられていった。
なんやかんや聞いてるうちに
気がつけば空が白んできた。
小鳥の囀りも聞こえてくる。
夏の朝は早い…。
傍でずっと話しを聞いていたのがよかったのか、
最初に見た印象は薄れ、女のコの顔に生気が戻ってきたように見えた。
もう大丈夫だろう!
きっともう死のうとかはひとまず思わないだろう…。
『じゃ、俺、帰るから…』
『はい、ご迷惑かけてすいませんでした…。』
なんとも複雑な気持ちを抱えながら、家路についたのだった。
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