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「マコトお嬢様、あなたは私がお守りします」
僕に向かって紫炎が言う。
「まだ、完全に信じたわけじゃない」
「じゃあ、なんで信じられない私と戦ってくれるの? 」
「お前は、僕が死んだら困る、お前の利益を信じているんだ」
「ふーん、可愛くない意見だなぁ」
紫炎と僕は男の方を向いた。
男は車輪のついたナイフの先を撫でる。
おそらく、香水の匂いは覚えさせたのだろう……
「………………」
男と僕たちは向かい合う。
静かな森の中、暫くの間、無音の時が過ぎる。
そして、風の音がなった瞬間、男が右手をこちらに向ける。
大量のナイフが一斉にこちらに襲い掛かる。
「紫炎!!」
「わかってますよ、お嬢様!!」
僕が叫ぶと目の前に巨木が倒れて来た。
さっきと同じ手だが、本体はこの方法をまだ見ていない。
後続のナイフは、さっきと同じように巨木を飛び越えてこちらに向かう。
それを同じように紫炎は燃やして溶かした。
先程と違うのはここから。
そのまま、その炎を男の方に仕掛けた!!
「攻撃は最大の防御だ」
紫炎は杖を男に向け最高火力で浴びせようとする。
しかし、炎が男の身体に触れる前に、森の奥から板が走ってきて男と炎を塞いだ。
その板には見覚えがあった。
「炭酸カルシウムか……」
僕はその板をポツンと見ていた。
「あぁ、俺は紫炎が魔王軍と戦う所を見たことがあってね。 対策として板を運んできていた」
男のしたりやったりの声がした。
僕は、板で見えない事を利用して、荷物からクリノリンを取り出した。
これが奴を倒す秘策になるだろう。
そんな事をしているうちに男の叫び声がした。
「さぁ、ナイフはまだまだあるぞ。 第二陣、出ろ!!」
そして、板の左右からナイフが飛び出してきた。
毎回ナイフの量が同じだという事は、この量が上限なのだろう……
「またナイフだ、巨木はもうない、どうする!!」
紫炎が言う。
「一斉に来るナイフだと無理だが、あのナイフの半分の量なら燃やせるって認識で正しいな? 」
僕は紫炎に確認した。
「そうだけど、どうする? 」
紫炎は焦った。
僕は布に石を丸め、それに香水をかけて、遠くにぶん投げた。
それに釣られるように、半分のナイフが布の方に向かった。
「よし、これでこちらに来るナイフは半分だ!!」
紫炎は炎でナイフを溶かし、またあとから向かってきたナイフを燃やした。
紫炎の表情はすこし疲れた様子だった。
あと一度か二度で限界だろうか?
「くっそぅ!!」
男の悪態が聞こえた。
ナイフにまた車輪を付け直さないといけないみたいだ。
「紫炎、準備が出来た!! 君の能力の出番だ!!」
僕は紫炎に『秘策』を渡した。
「第三陣、用意!!」
男が叫んだ。
板の左右からナイフが飛び出した。
「また能力を使ってナイフを燃やすか? そろそろ疲れてるのでは? 」
男は得意気になった。
「そうだ、だからこれで最後にしよう!!」
僕は叫んだ。
「は? 最後? もう諦めるのか?」
板の向こうから男の馬鹿にするような声と同時に、上空で何かが割れる音がした。
そして、男に液体が降り注いだ。
「この匂いは……!! さてはお前らぁ!!」
男の叫び声がした、半分のナイフは板の反対側に戻っていく。
こちらに来るもう半分のナイフは紫炎が燃やした。
「うあぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」
板の向こうから悲鳴が聞こえた。
何度も何度も液体が飛び散る音と骨と金属が当たる音が交差する。
空を見ると、気球があった。
スカートをドーム状に広げるために使用したクリノリンに革を貼り付け、香水の入った瓶を結んだ後、紫炎の炎で空に飛ばした。
そして、男の頭上で瓶を熱して割り、中身をぶちまける。
敵味方わからず匂いに反応するナイフは男の元に戻ると言うわけだ。
紫炎は壁の向こうに足を進める。
「見ない方が良いぞ」
僕は言った。
「敵だったとしても埋葬したい」
紫炎は僕の目を見た。
「わかった……」
紫炎は板の向こうを見ると、口を抑えて目をそむける。
そして、息を整えた後、しっかりと杖を遺体に向けて火を放った。
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