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ノーズウェルの門が見えるところまできて、やっとオチデンターリスから亡命に成功した事を確信する。
「事件になるのと、恥ずかしいのどっちがいい? 」
紫炎は血まみれの服とドレスを指さし、地獄のような二択を僕に迫った。
僕は渋々、ドレスを選ぶ。
「やっぱりそういう趣味あるんだ~」
そうはしゃぐ紫炎を無視して、ドレスを着る。
一日で何度着替えた事やら、ドレスも三回目の着用となれば多少は慣れてくるというもの、コルセットの紐をきつく結んだ。
「やっぱり、かわいすぎる! 絶対に一人で夜道を歩いちゃダメだからね」
「そういうのいいから……」
僕と紫炎が門に近づくと門番が槍を向けてきた。
「誰だ、お前たちは!!」
僕は紫炎の方を向く。
紫炎はハッとして、手櫛で整えた髪型をワンレンのスタイルに戻した。
「ごめんなさい、あの髪型だったらわからないよね」
紫炎は門番に女性の顔を見せた。
「あれ、その顔は…… 紫炎様、大変失礼いたしました」
門番は紫炎の顔を見て敬礼した。
「さて、仲間になるならない関係なく、これから王宮来てもらいたい」
入国して紫炎は言う。
転生者はこの世界にとって政治、外交、戦争、経済において重要なポジションをもつ。
例をあげるなら、異世界でアルミを作った転生者は経済を揺るがすほど稼いでいる。
そのため、僕のように仲間になる意思がない者でも、転生者の事は把握しておきたいのだろう。
「言い忘れたことがある。 ノーズウェルは大陸の最北西にあるため、王宮も守りやすい北西に位置している」
「つまり? 」
僕は紫炎に対して恐る恐る聞く。
「国の南側にある門をくぐっても、この国の最北まで行かなければいけない。その格好で」
「馬車を出してくれぇええええええ!!!!!」
今日一番の笑顔の紫炎に対して僕は今日、一番の悲鳴をあげた。
北と西は海で囲まれ漁業を発展させた国『ノーズウェル』には三つの隣国がある。
東には、浮遊島のある『セプタテラ』
南には、先程まで住んでいた『オチデンターリス』
そして、東南には、大陸の中央に近い位置にある『チェンヴィラム』
そんな国を馬車で縦断して王宮まで向かう。
「服屋に行かない?
先の戦闘でズタズタになってしまった服をみた紫炎が提案する。
何度か服屋に入るが、紫炎は毎回ドレスやメイド服、変態転生者が輸入してきたスク水を僕に提案する。
「男性用の服でお願いします」と紫炎をにらみつける。
「そんなこと言ってもいいのかな? 君の所持金じゃ買えないんだよ、馬車代も私のお金だしね」と紫炎はニヤリと口角を上げた。
「参りました」
流石にスク水は無理だと抵抗して。
馬車で移動した3日間はメイド服、ワンピース、和風メイドを……
1日街で休憩した日にもワンピースを着せられて。
休んだ後の4日間は馬車の中でメイド服、ドレス、メイド服、魔法少女のコスプレと日替わりで着せ替え人形にされ、やっとの思いで王宮に到着した。
なにかあったかは知らないが、王宮の近くには民衆が集まりガヤガヤしている。
「王宮に入る前に一つ聞きたいんだけど良い? 」
僕は紫炎に確認を取る。
紫炎は時計塔の方を一度見た。
「良いけど、どうしたの?」
「なんで、この異世界に魔法少女のコスプレがあるんだ? 」
「あぁ、転生者の中に過労死したイラストレーターが居てね。 それに目を付けたアルミ王が印刷を発明して、魔法少女の紙芝居を流行らせたの。 その作品のファンになった仕立て屋が、この服を作ったって訳」
「……なるほど」
紫炎はまた時計台の方を見て何かを待っているかのようにボーっとしている。
「行かないのか? 」
「あ、ごめん」
僕が聞くと紫炎は慌てたように門番に話しかけに行った。
「おはよう」
「あ、紫炎様、予定より1日遅い到着ですね」
城の門番が言う。
「疲れたから、1日休みを取ったんだ」
紫炎はにやりと笑う。
1週間で学んだ。
これは何かを企んでいる顔だ。
「こちらの女の子は? 」
「1週間前に声をかけた転生者だ」
「男性と聞きましたが? 」
門番が顎に手を当てて、眉をしかめた。
「あぁ、男だよ」
僕は小さく声を出した。
「し、失礼いたしました……」
門番は困ったように謝る。
「あれの前に一度、女王様に挨拶したいの」
「わかりました、お入りください」
門番が僕と紫炎を王宮に入れた。
王宮入口の階段を登る。
各階の天井が高いせいか、二階に上がるだけでもすごい労力だ。
二階の広い廊下には赤いカーペットが敷かれ、高い天井には古典絵画が描かれている。
壁には光の柱が廊下に差し込む窓が設置されていた。
「いつもより、歩く速度が遅くないか? 」
僕は紫炎に聞いた。
「綺麗な廊下だからマコトちゃんにも観てもらいたいと思って……」
「なるほど、ごめんね」
「いいの、女王様が待ってるなら急がないといけないのも確かだし」
紫炎は窓の外の時計台を見た。
「んじゃ、行こうか!!」
紫炎と僕は歩く足を早めて、王室に向かった。
「お待ちしておりました」
部屋の奥、三段の階段の上で、女王が玉座に腰をかけていた。
絹のように美しく伸びた金色の髪、百合の花のように綺麗なドレス。
目は俗にいう糸目という感じだろうか、静かに閉じているが僕たちを見ている気もする。
左右に付き人が立ち、有事の際にはすぐに動けるようしっかりと警戒していた。
「自己紹介して」
「あ、転生者のマコトです」
紫炎に催促され僕は挨拶した。
「素敵な『お嬢さん』ですね、よろしくお願いします」
「だから『男』だって」
「「女王陛下に向かって、なんだその口のきき方は!!」」
「ごめんなさい!!」
二人の付き人に怒られ、とっさに謝ってしまった。
「サム、アトラク、やめなさい」
女王様が二人の付き人をなだめる。
「あまりにも可愛かったので勘違いしてしまいました、ごめんなさいね。 私はカーラ。
女王とはいえ、貴方と同じ転生者です。 気を使いすぎなくても結構です」
「転生者?」
女王の発言に僕は聞き返す。
「はい、先代の王が亡くなる際に後継者として私を選んでくださいました。 最初は反対する者も居ましたが、魔王を滅ぼした者という事もあり今に至りました」
女王は説明した。
「先週の事だから驚きましたね」
紫炎が目を伏せた。
「そうですね。 元から病は進行していたみたいですが、本当に急で驚きました」
「それで、あれはやるのでしょうか? 」
紫炎が聞く。
「はい、王位継承の式典はこれから行われる予定です」
女王は右手に大きな杖を持った。
「私に提案があります」
紫炎がニヤリと笑う。
「言ってみて下さい」
「今回の式典、国の未来を担う者として、ここに居る転生者全員に参加していただくのはどうでしょうか? 」
「紫炎、良い事を言いますね。 アトラク、準備を」
紫炎の提案に女王は付き人の一人にお願いする。
「いや、聞いてないよ、何勝手な事言ってんの? 」
俺は紫炎に耳打ちする。
「良いじゃないの楽しそうで」
紫炎はにっこり笑う。
「すいません、式典にふさわしい恰好ではないので着替えてもよろしいでしょうか? 」
僕は恐る恐る聞く。
「そんな時間ないよ」
サムと呼ばれていた付き人が言う。
全てのつじつまがあった。
わざわざ、王宮の道中に街で1日休憩したのも。
何度も何度も時計塔を見ていたのも。
廊下で歩く速度が遅かったのも。
この、魔法少女の姿で僕を式典に出す為だ!!
「カーラ様!! カーラ様!! カーラ様!! カーラ様!!」
広場の方から、女王を呼ぶ民衆の声が響く。
いったい何人いるのだろうか……
二桁、三桁ではないはずだ。千人?一万人居てもおかしくない。
「女王様、準備完了です」
アトラクと言う付き人が言う。
「あの、やっぱ着替えたいんですけど」
無駄だと思ってても僕は小声で言う。
「女王様、民衆を待たせてはいけません」
僕の小さな悲鳴を打ち消すかのように紫炎はしっかりと声を出す。
「では、行きましょう」
女王様は一歩ずつ玉座の階段から降りた。
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