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「女王陛下、僕も手伝います」
どの国にも手を貸すつもりはなかった。
しかし、関係ない人が巻き込まれる所で何もしないのは、気分が悪い。
「手伝ってくれるの!!」
紫炎が目を輝かせる。
「あぁ、気分が悪くなったからな」
僕は紫炎の目を見た。
彼を知り、己を知れば、百戦殆うからず。
まずは情報が必要だ。
「敵と味方の兵の数は? 」
僕は兵士に聞く。
「はい、味方5万に対して敵6万です」
「5対6……?」
僕は聞き返す。
「何か引っかかるのか? 」
サムが尋ねる。
「攻撃三倍の法則。 地形や状況にもよるが、基本的に攻撃をする際には敵の三倍の兵力が必要となる。 数で多いように見えるが足りない」
「なるほど、という事はこちらが有利という事か?」
僕の発言にサムは目を輝かせる。
「希望を感じている所、申し訳ないが、逆だと思う。 同じ兵力でこちらを攻め落とせる『何か』があるんだ……」
「なるほど……」
僕の言葉にサムは腕を組んだ。
「何も考えず突っ込んできてるかもよ!!」
紫炎が楽観的な態度で言う。
「そうであってくれると、ありがたい。 しかし、敵は常に自分の一歩上に居ると考えた方が良い。 敵の前では怒らせたりするため馬鹿にした態度を取るが…… どんな愚かそうな相手であれ、どんな憎い相手であれ、どんな弱い相手であれ、勝つための行動をしてくる」
僕はしっかりと、低い声で言う
「勝ちたければ、敵に敬意を持て」
机に大陸の載った地図を開く。
ノーズウェルの地形を再確認する。
国の南東にある山から大きな川が北と南西の二方向へ流れていく。
川の近くには農村が作られ、そこに街が発展していることがわかる。
北東は平地となっているため、防衛用の堀が作られているみたいだ。
「何故、セプタテラはこちらを侵略し始めたんだ? 」
僕は顎に手を当てる。
「それを考える前に、今ある侵略を防ぐのが先では?」」
アトラクが異議を唱えた。
「侵略した理由が分かれば対応の仕方もわかってくる」
「なるほど……」
セプタテラの地理を確認する。
南側の山から川が北に向かって流れていて、川の近くが栄えているのはノーズウェルと同じだ。
北西にはノーズウェルからの進行を守るための堀が用意されている。
「地図以外にセプタテラの情報はあるか? 」
「この前、潜入したよ」
紫炎が言う。
「国の雰囲気は? 」
「とにかく食料がないみたい。 魔王が居た頃は各国が同盟を組み、食料や技術、かかる費用を助け合っていて、セプタテラは技術を輸出することで他の国を助けていたようなの…… 魔王と戦っている間は技術と交換で食料を他の国から貰ってたみたいだけど、今はその必要もなく、むしろ帰ってきた兵士に与える食事もなくなったみたい 」
「なるほど、食料を奪うための戦争か……」
「でもおかしいんだよな」
紫炎が言う。
「どういうところが? 」
「兵士は4万だったはずだけど、急に徴兵したかも」
僕の質問に紫炎は顎に手を当てながら答えた。
「急いでいるのかもな…… 攻めるのに自国の堀が邪魔になるはずだが埋めていないのもそれが理由か……」
セプタテラの弱点を突くんだ……
僕は頭を精一杯回した。
「違う!! チェンヴィラムだ!!」
僕はとっさに叫んだ。
チェンヴィラム……
ノーズウェルの南東、セプタテラから見て南にある国。
「チェンヴィラムがどうした? 」
サムが聞く。
「チェンヴィラムは大陸の中央に位置していて川がない。 おそらく、何かしらの方法で別の国から水を購入していると思うんだ」
「おい、まさか……」
「セプタテラの南部には川の流れる山がある。 チェンヴィラムからすれば喉から手が出るほど欲しいはずだ。 攻撃させれば僕たちを攻撃するどころじゃなくなる」
第三勢力を巻き込み、攻撃させて自分の損害を最小にしたまま敵を討つ。
『三十六計逃げるに如かず』と言う諺にある、三十六計の一つ。
刀を借りて、人を殺す。
『借刀殺人の計』だ。
「少し、希望が見えてきましたね」
女王がつぶやく。
「とりあえず、チェンヴィラムに手紙を送り様子を見よう、転生者が居ればチェンヴィラムがセプタテラを攻撃するより前に防衛に失敗する可能性がある、だから、僕たちは現場に向かおう」
僕と紫炎は目を合わせる。
「サム、アトラク、貴方たちも行きなさい」
女王が二人に言う。
「しかし、女王陛下を守る者が居なくなります!!」
「私の命より、民の命です。 私も転生者の一人です、上位の存在からチート魔道具をもらっています。 自分の身は守りましょう」
女王は宝石箱からイヤリングを見せつけた。
「それとも、私が戦場に行った方がいいと? 」
「それは危険です!!」
女王の発言にアトラクが叫ぶ。
「なら、私に気にせず行きなさい」
女王は笑う。
僕たちが会議室から出る瞬間
「待ちなさい」
女王が全員の足を止めた。
「『システム』には気を付けなさい…… もしも、『システム』と戦う事があれば、全員逃げて」
僕にはその意味がわからなかったが、サム達は頷き、自室に戻り出るための準備を始めた。
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