俺以外Tueeee世界でチート転生者を理系知識でわからせろ!!~In The Court Of The sky King~

15/32
前へ
/32ページ
次へ
「ここに居たか!!」  アトラクとサムが僕と紫炎に声をかけた。 「敵の転生者は四人だったな」  アトラクが聞く。 「いいや、一人だ」 「いや、四人と聞いたぞ」  僕の言葉にサムとアトラクは困惑の表情を見せる。 「なるほど、その転生者の能力、わかっちゃったかも!!」  さっきまで考えていた紫炎が大きく目を見開く。  初めて会った時から気付いてはいたが、彼女は実は賢い。  動機は僕を女装させるためってくだらない事だけど、ちょくちょく僕を出し抜き目的を達成する。 「とりあえず、時間がない。 1に鉛の球を飛ばしてくる、2に素早く移動する、3にアルコールを撒き散らして火をつけてくる。 これら三つの特徴を覚えておいてくれ」  僕はサムとアトラクに言った。 「あちらに、敵の転生者です!!」  一人の兵士が声をかけてきた。  四人で顔を合わせて、その方向に向かった。  転生者が居ると報告があった場所はだだっ広い平地だった。  その中を一人で立つ人影が見える。 「お前がセプタテラの転生者か? 」  僕の一言で、その男はこちらを向いた。 「そっちから来てくれるとは、手間が省けたよ」  左から、僕、紫炎、アトラク、サムの順で並び、その男と対峙する。  その、間を小さな草が転がった……  その瞬間、男はこちらに両手を向ける。  紫炎は左手で僕を庇い、右手で杖を男の方に構えた。 「POM POM POM POM POM POM POM POM」と音が鳴る。  その音を合図に目の前に紫の炎が広がった。  紫炎が目の前に炎の壁を作り、僕と自分を守ったみたいだ。 「ジューーーーー」と鉛の玉が溶けるのがわかる。  紫炎の向こう側では、アトラクは黒い砂のようなもので、サムは目の前で網目状の糸を使い身を守っているのが見える。 「あの転生者の魔道具は『気圧を操る力』…… であってるよね?」  炎で防衛しながら紫炎は僕に確認する。 「あぁ、そうだ。 今、行われている鉛玉を飛ばすトリックは、空気を圧縮させて、戻す勢いで弾を発射させている」 「それなら、これまでの現象は全て説明できるな」  アトラクが叫ぶ。  敵の攻撃音が収まり、一斉に能力を解除する。  周り一面に鉛の球が転がっていた。  男は既に両手を下げていた。 「次は何をするんだ……」  アトラクがつぶやいた瞬間、男の方の空気が一瞬ゆがんだ気がした。 「危ない!!」  紫炎が僕をアトラクの方に突き飛ばす。  その瞬間、とても強い風が男の方に向かって吹く。  僕とサムはアトラクに腕を掴まれる。  アトラクの足元は黒い粉で固定されていて、僕たちは飛ばされずに済む。  しかし、突風で紫炎は敵の方に飛ばされた。  風が止み、僕は男と紫炎の方を向く。  紫炎は男の近くに立ち、杖を向けていた。  こんなにもあっさりと終わるわけがない、これは罠だ。  紫炎もこれに気付いている。  問題は敵の能力の質だ。  気圧をただ操るのでなく、近ければ近いほど強く操れるとするなら。  ゾクッと来た、嫌な予感しかしない。  紫炎は杖から炎を出そうとするが、その炎はすぐに消えてしまい、杖の先から何かが落ちたのが見える。  そして、紫炎はそのまま、膝から崩れ落ちた。  0気圧  つまり、真空  その世界では、火は燃えず、呼吸もできない。  絶望の世界。 「目を閉じて、口を開けろ!!」  僕は大声で叫んだ。  真空は空気がない為、音なんか届かない。  しかし、叫んだ。  紫炎の耳に届いたか届かないかはわからない。  元からその知識があったかもしれない。  紫炎は瞳をキュッと閉じて、大きく口を開いた。 「あれは…… 真空なんだろ、口を開けていいのか? 」  サムは眼を大きく開く。 「逆だ、真空で口を閉じると、逃げ場を失った空気が肺を破裂させる!! 早く、紫炎を助けよう!!」  タイムリミットは15秒、真空状態に晒された宇宙飛行士が後遺症もなく助かった時間だ。  僕は紫炎の方に向かって走り出すがサムに止められる。 「おい、止めるな!!」 「これは、罠だ、お前も真空に晒される」 「わかってる、でも、どうしろと!!」 「だから、俺に任せろと言うんだ」  サムが糸を出して、倒れる紫炎に巻きつけた。 「もう、わかってると思うが、俺の能力は周囲4メートルにある糸を操る能力だ。 そして、その糸が繋がっている場合はその先までずっと操れる。」  そして、サムは紫炎に巻きつく糸を思いっきり引っ張った。  ギターの弦のように、糸が張り、そして切れた…… 「おい、切れてるじゃないか!!」  僕は叫ぶ。 「いいや、これでいい」  焦る僕を横目にサムはアトラクの方を見た。 「『あれ』を巻きつけた、後は頼むぞ」 「わかった」  アトラクは頷き、紫炎の方に、手を向ける。  紫炎の身体がスーっと浮き上がり、こちらに戻ってくる。  真空を作るのに集中していた男は、焦ったように手を伸ばしたが、間に合わず、こちらに向かってくる。  アトラクの能力が何かわからない。  しかし、紫炎は帰ってきた。 「紫炎!!」  僕は声をかけたが動かなかった。  異世界に来て、一番、気分が悪くなった。  僕は、恐る恐る、呼吸を確認し、胸に耳を当て鼓動を確認する。 「ドクン…… ドクン……」 「よかった…… 生きてる!!」  身体の緊張がいっきにほぐれて、大きく息を吐いた。 「サム、紫炎を医務室のあるテントに連れて行け」  アトラクが言う。 「こちらで能力を使えるのは二人、相手は一人、二対一の状況を崩す事になるが良いか? 」  サムは確認する。  そして、ゆっくりと僕とアトラクの顔を見返した。 「わかった、紫炎を無事に送ろう……」  僕とアトラクの意思が伝わったのか、サムは紫炎を糸で巻き背負い、この場から姿を消した。 「さて、女王が欲しがったお前の頭脳。 それで俺の能力を活かしてみろ」  アトラクと僕は目を合わせる。 「あぁ、そのつもりだ、今の僕はすげぇ気分が悪くなってる」  僕はアトラクの目を強く見る。  二人で男の方を見た。 「四人まとめて殺すつもりだったが、残念だ」  男は腰に手を当てて、こちらを眺めていた。 「いや、倒されるのはテメェだ。 その残念な顔が消し飛ばされねぇように注意するんだな」  僕は男に向けて指をさした。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加