俺以外Tueeee世界でチート転生者を理系知識でわからせろ!!~In The Court Of The sky King~

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 魔王を倒して二日ほど経つ頃だろうか。  僕の家に各国の役人からスカウトの手紙が届くようになり、国家間でチート持ち転生者の争奪戦が行われていることを知る。   僕が魔王と戦ったのは、罪もない民衆が殺されるのを見て、なんか気分が悪くなったからだ。  私利私欲で動く国々に手を貸してしまうと、その悪い気分がぶり返しそうになる。  結局は魔王を倒したところで何も変わらない……  そういう理由で手紙を無視し続けて一カ月後、コーヒーでも飲みながら窓の外を見てると林から、何かから逃げるかのように鳥が飛ぶのが見えた。  不自然だ、おそらく、どこかの国から刺客を仕向けているのだろう。  僕を他の国に取られるぐらいなら始末しておきたいってことだ。  冬の寒い真夜中に荷物をまとめる。  会わないことが理想だが、もしもの時の事を考え、自衛用のナイフを右手に忍ばせた。 「なんだ、このコップはァ、見ない素材だな、変な形に加工されてやがる!!」  玄関まで来ると、近所の酒場から酔っ払いの笑い声がしていた。  普段なら睡眠を邪魔されると苦情を入れている所だが、今はもう関係ない、家の裏口から出た先には、ある男が立っていた。  この男は魔王討伐で見たことがある……  たしか、チート魔道具を使い、手から炎を出していた所を見たことがある、魔物の特徴を理解して弱点を見抜き、そこに炎の一撃を浴びせていた。  もしも、炎が通じない魔物と会えば仲間をしっかりと頼って戦える、まぁまぁ賢い奴だった事までは覚えている。  男が、こちらに手を向け攻撃の準備を始めるのを見て、この男が刺客だと確信する……  自衛用のナイフで攻撃しようにも4メートルはある距離で男が攻撃するより先に攻撃なんて不可能だ。  冬の寒さとは違う、身体が凍りつくような感覚。  まずい……  このままでは殺される。  しかし、僕の頭は回転していた。  そして、今の状況を一つずつ噛み砕いていた。 ・転生者は一人一つチート魔道具を貰える。 ・チート魔道具は一つにつき一つ能力が与えられている。  ただただ破壊力のある魔道具やトリッキーな戦い方のできる魔道具等種類は様々。 ・僕はチート魔道具を『現在進行形で使用している』が、戦闘向けではない。 ・男とは過去に魔王戦で共闘したことがあり、能力の内容は炎を操る能力。  ある程度、敵の状態などを分析しながら戦っていたのを見ると賢い所はあるようだ。 ・逆に、男は僕の能力を知らない、使えるか使えないかも知らない  ここから導き出せる答えはなんだ?  自分は他の転生者と違い、戦闘するための能力なんて持っていない、ただの人間だ。  だからこそ頭を動かせ。  僕は、迷う暇もなく、右手に持っていた自衛用のナイフを自分の左肩に突き刺した。 「なんだと!? 」  男は驚き、手を止めた。  無意識に食いしばられた歯から耳へ骨を伝い「ギシギシ」という音が聞こえ、肩から全身にかけて筋肉が緊張していく。  冷たい血が肩から、脇腹をドロリと粘り気を纏いながらズボンまで落ちて滲む。  そして、僕は男の左肩を見た。  見たというより『見ている所』を見せつけた。 「お前、何をした」  男は恐る恐る聞く。   「何をしたって、お前の左肩を見てるんだが? 」 「違う!! その前に何故、自分の左肩を刺したんだと聞いているんだ!!」 「……」  知恵というのは時に仇となる。  とある昔の話、ある城が敵の大軍に攻撃された際にあえて城を開いた将が居たと聞く。  もしも、敵将に知性がないのであれば何も考えず突撃するだろう。  しかし、察しの良い敵から見ると、静かにただ開く城門は、罠があるような感覚に陥り不気味でしかない。  今、僕の目の前にいる男も魔物との戦いの時は冷静に物事を判断する性格だった。  自分の身体を意図して傷つけるわけがない、だからこそ裏がある。  そうやって察することのできる男だからこそ、このハッタリが通じると思った。 「なるほど、自分でやる場合は失敗するのか……」  僕はつぶやいた。 「クソ、どうしろってんだ」  男は少し困惑した表情を浮かべた。  銀のヘルメットを被った頭に手を伸ばす。  手首には御洒落な性格なのだろうか、ブレスレットがついている。  このハッタリは確実にバレる、バレるまでの時間でどれだけ思考出来るかが大事だ。  そう、今の僕に魔道具なんてものはない。  その代わり、魔王軍の魔物と戦ってきた知恵がある。  とにかく、状況を整理しよう……  今は酒場の裏の路地に居る。  近くには、憲兵の詰所、パン屋、農場、地下水路、時計塔、畑、自分の家だった場所……  憲兵の詰所は真っ先に思い浮かんだがチート能力者相手にすれば憲兵が敵うはずもない。  ただ、男を気絶させられれば牢屋にぶち込むことは出来るだろう。  酒場に入れば別のチート能力者がいるかもしれないため、上手く争わせるのも手だが、賭けに出る要素が大きすぎるし、多くの人を巻き込むことになる……  地下水路は、水路だけではなく、歩道も用意されている、非常時に備えて水のたまった大きな水瓶が所々に置いてある。  地下道の近くには農場があり、肥料を運ぶための荷車がある、肥料には作物を病気から守る効果がある。  畜産もおこなっており、異世界では巨大な馬から10メートルもするソーセージが取れる。  パン屋は魔道具使いの協力で綺麗な水を精製し、上質な小麦粉でおいしいパンを作っている。  僕の脳内に電流が走った。  あの男の魔道具を考慮すれば、この手が使えるかもしれない!!  そのためには、この場所から一旦、逃げる必要がある。  ただ、逃げれば躊躇なく攻撃される可能性もある。 「あんた、攻撃しないのかい? 」  僕は煽るように聞く。 「……」 「なるほど、攻撃できないんだ!! 」  僕は男の方へ近づく。  近くが酒場という事もあり、辺り一面に空いた酒瓶やコップが転がっている。  建物の近くに木箱があり、その上に予備のお酒が数本置いてあるのを見た。 「……」 「さぁ、どうする? 」  僕は男のまわりを歩く。  どうか、今やっていることがバレないでくれ…… 「うっせぇ、ウロチョロするな!! 」  男は遂にキレてこちらに手を向けて火を放ってきたが、その炎は小さく僕の左手の甲を焦がすだけだった。 「焦って気付かなかったが、相手の攻撃をそのまま返す能力かどうかわからないなら、軽いジャブで試せばいい」  男はこちらをにらみつけて、右手をこちらに向けなおす。 「ちょっと待て!! 」  僕は手を背に向けたまま男に身体を向けた。 「なんだ?」 「え~っと」  僕は言葉をひねり出すふりをしながら背の後ろで、木箱の上の瓶を手で掴む。 「僕みたいな奴を簡単に歩かせるな」  そう言った瞬間、酒場の瓶を相手に向けて思いっきり投げつけた。  瓶は男の銀のヘルメットに当たり、大きな音をたてながら中身を飛び散らせ、まわりにアルコールの匂いを充満させる。  男は一度、怯んだが、再びこちらに手を向ける。 「お~っと、今、能力を使ったら困るのはどっちかな? 早く酔っぱらいたい奴らの為に用意された、度数90度もあるお酒だ、すぐにでも引火するぞ!!」  お酒の度数が何度かは知らないが、このハッタリで男は炎を出すのをためらった。  僕は近くにある蝋燭を息で吹き消し姿をくらました。  灯りが消える一瞬、男の眼が覚悟に移り変わるのは気のせいだったか。  襲われた場所が夜中の異世界だった事が幸いだった、エジソンもテスラおじさんも居なかった、こんな異世界、ある光源といえば蝋燭、ランプ、松明ぐらいだ。  忍者もよく姿を消したと表現されているが、今と同じ光源の少ない戦国時代の夜に黒い衣装を着て発見される方がおかしい訳だ。  しかし、あの男の能力で炎を出されてしまえば簡単に見つかるだろう。  あのお酒をぶちまけたのは攻撃を回避するのと他に、索敵の為の炎を使わせないのも目的の一つだ。  あの男の言う通り僕にチート魔道具なんてものはない、戦闘に向く特殊スキルなんてものも持ち合わせていない。  しかし、敵の能力を逆手に取り、利用して敵を倒す知恵がある。  憲兵の詰所、パン屋、地下道、時計塔、畑、自分の家だった場所……  あの男を返り討ちにするために行く場所はここだ!!
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