親友に騙された!

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 とある地方都市のローカル鉄道。かつて都会で活躍していた人気の観光列車が、この地に“転勤”してきた。今は、地域の足として“第二の人生”を送っている。興味のない人からすれば、数ある車両のなかのひとつにすぎないが、マニアにとっては非常に魅力的であることこのうえない。週末になると、“乗り鉄”や“撮り鉄”が全国から大挙してやってくる。  屋山(おくやま)宏子(ひろこ)、31歳。大学卒業後、現在の企業に就職して、今年で10年目になる。彼女も、どちらかというとライトな女子鉄である。通勤の手段として、マイカーという選択肢もあったのだが、やはり鉄道好きであれば、この列車には魅せられるものだ。後々、自身の運命を大きく揺さぶられることになるなど知る由もなく、日々、この路線を利用していた。  地方都市における電車の本数は思いのほか少ない。通勤時間帯であっても、せいぜい20分に1本、がいいところだ。都会のように5分も待たずして、次の電車が来るということはない。1本乗り遅れようものなら遅刻は避けられず、必然的に毎日同じ時間の電車に乗ることになる。  そうなると、車内は、たいてい同じ乗客が顔を合わせ、立ち位置、座り位置もおおよそ決まってくる。宏子の定位置はドア付近だ。片手で手すり棒に掴まりながら、反対の手でスマートフォンを器用に操り、画面に見入っていた。
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