高嶺の花と義弟と書記

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「ね。弟くんに話すことなんてないんだけど?そこ、どいてくんない?」  すると、類は弥生を通り越して俺に手を伸ばしてくるのだ。 「兄さんに触るな、この変態」  ぱしっと弥生が類の手を払うと、類は深く息を吐くのだ。 「変態、なんてひっどいなあ、君も知ってるでしょ?俺が咲良ちゃんに無理やりしたのは本意じゃないって」 「それは分かってますけど、限度ってものがありますよね。兄さんの目、まだ腫れが引かないんですから」 「わ、本当だ。ごめんねえ、咲良ちゃん。俺のせいでこんなになっちゃって、可哀想に」  すると弥生の隙を付いた類は、弥生の背後にいた俺の手を引くと、ぐいっと抱き寄せてくるのだ。  抱き寄せられた拍子に、類の肩にぼふっと顔が埋まると、類の匂いがふわっと香った。瞬間、昨夜の出来事が思い起こされるのだ。  一気に顔が熱くなると、その様子を見た類は笑った。 「ふ、咲良ちゃん顔真っ赤。どうしたの?またシたくなっちゃった?」 「っな・・!ちが、う、から・・・、離・・っ、」  類を胸を押すが、びくともしない。どんだけ馬鹿力なんだ、この男は。 「もー、つれないよねえ、咲良ちゃん。最初こそ無理やりだったけど、最後はあーんなに気持ちよくなっちゃったのにねえ?」 「っ、それ・・・は、」  類の返答に詰まり、どんどん顔が熱くなり、もう、いろいろと限界を迎えそうな時だった。 「兄さん、大丈夫?!」  弥生が俺から類を引き剥がすと、再び弥生の背に隠されるのだ。 「・・あーあ、もうちょっとだったのに。俺の邪魔するなんてさ、本当、何様な訳?」  類は、はー、深く息を吐くと、弥生を睨むのだ。  何がもうちょっとだったのかは怖いので考えないでおこう。 「ぶっちゃけさ、今生徒会って人多いくらいなんだよねえ。ここ何日かで新しい子も入って来たし。弥生くん、辞めたら?」 「・・は?俺が何で生徒会にいるか分かりながら、兄さんの前でそういうこと言うか?普通。・・・わざとだろ、アンタ」  ーー待て。今さらっと流されたが、今、生徒会は人が足りてるって言ったか?   なら、先日あった、朝日が生徒会に汚い手を使われて落とされた選挙は?人が足りてるのに選挙が開かれたって、どういうーー  考えれば考えるほど、目の前が黒く染まっていく様な気がした。 「あは、・・君がどういう事情で生徒会に入って来たかなんて知ってるし、それを咲良ちゃんの前で言うのもわざとに決まってんじゃん」 「・・アンタって"一応"芸能人の癖に性格悪いですよね。引退したらどうですか?」 「は、君も大概だけど?俺にそんな口をきくなんてさ。ね、咲良ちゃんもそう思ーーー・・って、あれ、咲良ちゃんは?」 「は?兄さんなら俺の後ろ・・・・・って、い、 いない・・?!」 「助かった、ありがとう」  弥生と類が言い合っている間、頭痛が酷く弥生の後ろでうずくまっていた俺を、目の前にいる親切な奴が体を支えてくれて、人気のない校舎裏まで連れて行ってくれたのだ。 「いいえ。咲良先輩が具合悪そうに見えたから当然のことをしただけなので、お礼には及ばないです」 目の前にいる男はふわっと柔らかい笑顔でこちらに向かって微笑んだ。 「いやいや、本当、助かったよ。えっと・・・」 「僕、1年の結城っていいます。咲良先輩、ですよね?1年の間でも凄く美人で、高嶺の花だって有名ですよ」 「いやいや、高嶺の花って盛りすぎだろ・・」  そもそも何で高嶺の花なんだ。俺のイメージと違いすぎるだろ。 「そんなことないですよ。儚げな美人って感じで、声をかけたい人もたくさんいますよ。・・・・・それより、」  ーーそれは、突然だった。  先ほどまで柔らかかった結城の雰囲気が、いきなりフッと変わったのだ。 「・・得体も知らない奴にノコノコ付いて来るなんて、咲良先輩って、特待生なのに頭悪いんですね」 すると結城は俺に向かって小馬鹿にした様に笑った。 「・・・え、?」 「今、俺達生徒会が先輩にとって危ないのに、危機感がなさすぎるって言ってるんですよ」 ・・・え、今、"俺達"ってーー ーーすると、結城はじりじりとこちらに詰め寄ってくるのだ。  目の前にいるただならぬ雰囲気の結城に、俺は無意識の内に後ずさってしまっていた。 ーートンっ  気付けば背後は壁。目の前には結城。  結城は俺の後ろにある壁に手を付くと、俺の足の間に膝を差し込むのだ。  完全に逃げられなくなってしまった俺は、ただただ俺を見下ろしてくる結城を睨むことしかできなかった。結城はそんな俺を見て、さぞ面白い玩具を見つけたかの様に、にやっと口角を上げたのだ。
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