高嶺の花と現役アイドル副会長

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高嶺の花と現役アイドル副会長

 窓から差し込んだ月明かりが、目の前にいる人物の顔を照らした。  その男はやけに端正な顔立ちで、その手のことには詳しくない俺でも、さすがに知っているくらいの有名人だった。 「類、先輩・・・」 「あったりー!ま、そりゃそうだよね。だって俺だし、みーんな知ってて当たり前だよね」  やけに明るく自信家であるこの男ーー類は、誰もが知っている現役国民的アイドルだ。両親共に有名な元アイドルで、正にサラブレッドとも言える。さらには生徒会副会長も務めあげていて、もちろん学園にいる奴なら誰でも知っている人物だ。 「でもそれはそれとして、人気物の咲良ちゃんが俺のことを知っててくれてるなんて嬉しいなあ」  すると類は、目の前にいる俺の顎を捉え、ぐっと顔を寄せてくるのだ。 「な、に・・、っ」  突然のことで思わず類の手を振り払ってしまう。 すると振り払った手で肩を押され、散らばった書類の上に仰向けに転倒してしまう。  転倒した拍子に床に軽く頭を打ち、痛がっている間に、俺の顔を類の影で覆われるのだ。 「なんで拒否すんの?優しくしてあげるよ?俺」 「え、や、優しく?」 「最初は痛いよねえ。でも大丈夫。ちゃーんと慣らしてあげるから安心して?」 「あ、の、意味が分からないんですけど・・・」 「心配しないで。咲良ちゃんの初めては俺がちゃんともらってあげるからさ」 「は?だから、さっきから何なんですか・・・。第一、俺、初めてでもな・・・、」  あ。思わずいらないことまで言ってしまったと慌てて口を閉じる。  すると、類は俺の顔の脇に両手を付き、上からこちらを見下ろすのだ。 「え、なに。もうお手付き済みな訳?」 「っ、お手付きって・・・」 「え、凄いショックなんだけど!処女じゃないの?!」 「ちょっ、類、先輩、!」  こんな状況だが、訳の分からない状況に目の前の人物に向かって声を振り絞った。  類はきょとんとし、「なーに?」と俺に向かって小首を傾げるのだ。 「さっきから何を言ってるか分からないんですけど。お手付き、だとか、しょ、・・処女、とか・・」  何だか恥ずかしくなり思わず顔を逸らしてしまう。すると、類はまたもやきょとんとするのだ。 「えー、咲良ちゃんって特待生なんでしょ?頭いーのにそんなことも分からないの?」  くすくすと笑うと、俺の耳に顔を近付けてくるのだ。 「セックスのことにきまってんじゃん」 と、囁くと顔を上げたと思えば、にこっとこちらに笑顔を向けてくる。 「っ、せ、せ、っくすって・・・」 「この俺が体を買ってあげるって言ってんの。他の奴らは絶対イヤだけど君なら大歓迎だし。だってこれ、バレたら困るよね?」 と、俺の周りに散らばっている書類を指差した。 「っ!」  このことが生徒会にバレた時点で、退学になることは間違いないだろう。  裕福ではない家の為に将来良い職に就こうと、有名なこの学園にかなりの努力を重ねて特待生で入学できたのだ。退学などもっての他だ。  回避するのには、正直、生徒会に取り入り気に入られることしかないと、さすがに俺も分かる。それは、分かるが、 「そ、んなこと・・・、でき、るわけ・・・」 「えー、このままだと退学になっちゃうよ?」  すると、顎に手を当てて少し考えた後に何か分かったかの様に「あ、」とこちらを見るのだ。 「もしかしてー、彼氏くんに悪いと思ってる?」 「えっ・・・」  何で知っているんだろうか。俺と朝日が付き合っていることを。周りに気付かれない様にしていたというのに。 「あ、何で知ってるかって?だってさ、普通に考えたら分かるよ。君っていつも決まった子と一緒にいるでしょ?んで、処女じゃないってんならその子とヤったのかなって思うじゃん」 「っ、・・」 「ただ、処女じゃないのはショックだなー。だって前さーー」  すると、「あ、これは言っちゃいけないやつかも」と呟いたと思えば、「なんでもなーい」と、こちらに笑顔を向けた。 「ま、処女じゃないなら処女じゃないで仕方ないけど、どうする?退学か、それとも、」 「ーーー今から、俺に犯されるか」  好きな方選んでいいよ、と俺を組み敷いたまま見下ろすこの男が悪魔の様に見えたと同時に、どうしてこんなことになってしまったのか、生徒会に復讐などしなければ良かったと、物凄く後悔した。  知っていた。俺に選択肢など、最初から無い。 部屋で俺の帰りを待っている朝日のことを考えながら、目の前にいる男に身を預ける他無かった。
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