はじまり

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はじまり

「どうする?退学か、それとも、」 「ーーー今から、俺に犯されるか」  好きな方選んでいいよ、と俺を組み敷いた男は笑顔で俺に問いかける。  どうしてこんなことになってしまったのか、生徒会に復讐など考えなければ良かったと、この時になって後悔した。  知っていた。俺に選択肢など、初めから、無い。部屋で俺の帰りを待つ恋人のことを考えながら、目の前にいる男に身体を捧げるしかなかった。  そしてこの後、もっと酷い目に遭うことを、この時の俺は、まだ知らない。 「朝日、生徒会に復讐するぞ。俺がやってやる」  目の前の人物に掴みかかる勢いで迫った。この目の前にいる男、朝日は俺の唯一の友人であり、恋人だ。  俺達が通っている男子高は、教師は口を出さない、生徒会が主体の学園だ。  朝日は先週あった生徒会選挙で、生徒会の連中に汚い手を使われて落選させられたらしい。  朝日はいわゆる文武両道だ。友達が朝日しかいない俺とは違い、生徒からの人気も人望もある  そんな朝日が落選し、周りは皆困惑していた。生徒の大多数が朝日に投票していたからだ。  ただ、朝日を落とした生徒会には誰も抗議できないのだ。生徒会に異議申し立てなどすれば反発したとみなされて最悪退学だって有り得るのだ。 「・・・は?・・いやなに言ってんだよ、咲良。そんなことしたら・・・、」 「ちょっと生徒会室に忍び込むだけだって」 「馬鹿なことを言うな」と手を取られ、短髪の黒髪が頬をかすめる。くすぐったくて顔を上げると、朝日の顔が目と鼻の先にあった。 「・・朝日には、俺に何かあった時に駆け付けて欲しい。俺の気が収まらないんだ」 「いや、いくらなんでも・・・。それに何かあったら遅いだろ・・・、」  俺はこの金持ちばかりな学園で唯一、特待生枠で入学した。  自分で言うのもなんだが、俺は人から向けられる好意には敏感な方で、今まで主に男から好意を寄せられることが多かった。  この学園でも声をかけてくる奴は多いが、皆一度声をかけてくるだけで友達にまでは至らなかった。  思えば、1年生の俺の義弟はなぜか途中から俺に冷たくなり、話しかけて来なくなった。そのこともなぜだか気になるが、2年生の俺とは接点がなく接触が出来ない為、理由を聞くこともできないのだ。    朝日と仲良くなったのは入学してしばらく経った頃だ。同じクラスの朝日はいつも一人でいる俺に話しかけてくれて、すぐに打ち解けた。  男だけの閉鎖的な環境で、俺と朝日が惹かれ合うのは時間の問題だった。  俺に声を掛けてくれた朝日には正直、頭が上がらない。唯一の友人であり恋人の願いとあらば朝日の言うことは何でも聞いてあげたい。が、 「考え直せって。どう考えても無謀だ」 「大丈夫だ。絶対に見つからない様に夜間にやる」 「駄目だって」 「俺、どうしても朝日が落選したことに納得いかないんだよ・・・、」 「ならせめて俺もーー」 「お前は選挙で落とされた身だろ。生徒会室に何かあったら真っ先にお前が疑われることになるからやめろ。それに、こういうのは一人の方がやり安いだろ」  朝日は、はー、と分かりやすく息を吐き、頭をガシガシと掻いて何かを考えている様子だ。 「やばいと思ったら絶対に引き返す。危ないことはしないって約束する」 「・・・」  海外にも精通するこの進学校では、入学して何事もなく卒業できれば将来が約束される。  中でも生徒会は特別だ。誰もが知る名門大学に学校側から推薦してもらえて、ほぼ確実に入学ができるのだ。  おそらく、生徒会室に何かしら問題を起こせば、侵入者を許したとのことで学園の信用がガタ落ちし、生徒会も無事では済まされないだろう。  そんな学園なのに、朝日によるとなぜか夜間のセキュリティは甘いらしい。だからこそ、今がチャンスなんだ。 「・・・朝日、」 俺より身長が高い朝日の顔を覗き込み、目線を合わせる。 すると、朝日ははあ、と息を吐くのだ。 「・・・俺はお前の部屋で待ってる。何かあったらすぐに連絡しろよ」 「朝日・・・っ!」  朝日に抱き着くと、突然のことで受け止め切れなかった朝日と共に、ドサッとベッドの上に倒れ込んでしまう。 「朝日、・・・好きだよ」 「俺も」  頬に手を添えられ、優しく口付けられる。  後頭部に手を回され、頭の位置を固定されると、熱い朝日の唇から逃れることは出来なかった。 「っんん、」 「ん、・・・咲良、いいか?」  唇を離すと、熱っぽい目で俺を捉えるのだ。  1年の後半から付き合い初めて約半年、この男は数えるくらいしか抱いてくれたことがなかった。なんでも、俺のことを大事にしたいらしい。体に負担をかけたくないようだった。  そんな朝日が自分から抱きたいと言うのはかなり珍しいことだった。 「ああ、来て、朝日」  すると、一瞬目を伏せた様に見えたが、朝日はすぐにこちらと目を合わせると、再び口付けてくるのだ。口付けに応えるように、俺も朝日に合わせて、慣れないながらも必死に唇を追いかけた。
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