29人が本棚に入れています
本棚に追加
がくん、と頭が落ちて、目を開けた。
マンションの床が揺らいで見える。アイボリーのヒールを履いた自分の足。
こんな靴持ってたっけ……そうだ同窓会に浮かれて買ったんだった、と思い当たった瞬間、千早君の声がした。
「あ、気がつきました?
マンション着きましたよ」
「ふぇ?」
私の腕は彼の肩に回されていた。支えられている。
意外とがっしりした感触にどぎまぎした。
「ええ……ここまでどうやって」
「タクシーで」
「お金……」
「奈津さん、ちゃんと出してくれましたよ」
記憶にないけれど、住所も言ったんだろうか。
「ごめんね、ここで大丈夫だから」
そう言って彼から二、三歩離れた私は、その場に座り込んでしまう。
「無理ですって、そんな調子じゃ。部屋まで送りますから」
「うう……鍵どこだっけ」
バッグを差し出され、私はなんとか鍵を見つけ出す。
結局千早君は部屋まで入ってきた。
「ほどよく散らかってますね」
「だって今日人が来るって思ってなかった……」
「なんか安心感あります。高校の時は完璧に見えたけど、奈津さんもこういうところあるんだなって」
支える手はどこまでも優しく、私をベッドに寝かせてくれた。頭を撫でられる。
「そういうことするの、よくないよ……」
言ってしまって、なんだか逆に誘っているみたいじゃないか、とぼうっとする頭で思った、けど。
「じゃ、帰ります」
「え、帰るの?」
「ええ。すみません飲ませすぎちゃって。楽しい夜でした」
「千早君……」
「おやすみなさい」
彼は部屋の電気を消して、出て行った。急に部屋が静かになる。
また彼は、すり抜けていく。
逃げられると気になる。後を追いたくなる。
でも今日は無理だ。だってもう立ち上がる気もない。
ふわふわと、全身が気持ちがいい。
お酒に酔ったのか、千早君に酔ったのか。
たぶん両方……。
あれ、スマホどこにやったっけ。
それより、眠い……。
私は目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!