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■:あれから雨の日に公園に行っても
■:彼女には会うことが出来ていない。
■:僕は何かしてしまっただろうか。
〇:私には誰にも言えないことがある。
〇:雨の日しか出られない、理由が。
〇:3年前のある日。
〇:当時、よく一緒に居た彼が居なくなった。
〇:理由は覚えていない。
〇:ただ、1つ分かっていることは
〇:それがきっかけで
〇:晴れた日に、外に出られなくなったということだけ。
【場面転換】
▼:「今日、いい天気だなぁ。」
〇:「そうだね」
▼:「あ、そうだ。」
〇:「ん?」
▼:「久しぶりにあそこ行こうよ。」
〇:「えぇ…あそこ、暑いじゃん。」
▼:「少しくらい平気でしょ?」
〇:「私が暑いの嫌いなの、知ってるでしょ?」
▼:「まぁ、水がないと生きていけない運命にあるもんなぁ。」
〇:「そう。だから、私はここに居るの。」
▼:「…そろそろ雨を降らないと、しんどい?」
〇:「そう…だね。」
〇:「声が聴こえてきてるから、そろそろ降るんじゃないかな?」
▼:「出た、キミの不思議な力。」
〇:「不思議なんて思ってないでしょ?」
〇:「あなただって、光の声が聴こえるんだから。」
▼:「まぁね。」
〇:いつも夢に見る光景はここまで。
〇:相手の顔もよく見えない。
〇:でも、懐かしい感じがして…
【場面転換】
〇:「あぁ、だからあの人に…(小声)」
■:「あの人?」
〇:「っ!」
■:「あ、ごめんなさい。」
■:「いつもよりボーっとしてるように見えたので。」
〇:「…何でもありません。」
■:「そうですか。」
〇:「では、私はこれで。」
〇:そう言って、その場を離れようとした時
〇:彼に腕を掴まれた。
〇:「何でしょうか?」
■:「この間、どうして居なくなってしまったんですか?」
〇:「あなたが寝てしまったから」
■:「それは本当に申し訳ないと思ってます。」
■:「でも、起こすことも出来たはずです。」
■:「だけど、あなたはしなかった。」
〇:「それは…気持ちよさそうに寝ていたから。」
■:「それだけ…ですか?」
〇:「何が、言いたいんですか?」
■:「あなたは何かを隠しています。」
〇:「えぇ。ミステリアスな女なので。」
■:「茶化さないでください。」
〇:「だって、雨の声が聴こえるなんて女、普通おかしいと思うでしょ?」
■:そう言って彼女は、僕の手を振りほどいた。
〇:「雨の日にしか現れない、幽霊なんですよ私は。」
■:「そんなことないです。」
〇:「……。」
■:「…僕は、見えるんです。」
〇:「見える…?」
■:「はい。」
■:「精霊、というのでしょうか。見えるんです。あなたの周りに飛び回っているのが。」
〇:「え!?」
■:「おかしいと、思いますよね。」
〇:「……いえ。」
■:「初めてあなたに会った時から、気になっていました。」
■:「精霊は通常、人間の周りに居続ける事はありませんから。」
〇:「そうなんですか。」
■:「はい。あと、僕は、見ることは出来ますが、聴くことは出来ない。でも、あなたの隣に座って目を閉じた時、僕も雨の声を聴くことが出来たんです。こんな事は初めてです。」
■:「あなたは…あなたは一体何者なんですか。」
〇:「…分かりません。」
■:「分からない?」
〇:「気付いたら、ここにいるんです。雨の日に。でも、私は誰なのか、どうしてここにいるのか、思い出せないんです。」
〇:「何故だか分かりませんが、私には雨の声が聴こえる。その声を聴いて、自分が何者なのかを知ろうとしていたんです。でも、何度耳を傾けても、問いかけても、分からない。」
〇:「途方に暮れていた時に、あなたが声を掛けてきてくれたんです。」
■:「そう、だったんですね。」
〇:「はい。」
■:「何か他に、覚えていること、思い出したことはありませんか?」
〇:「他に?」
■:「なんでもいい。何か覚えていることがあれば話してみてくれませんか?」
〇しばらく考える。
〇:「…夢を、見るんです。」
■:「夢?」
〇:「はい。とても大事だった人が、突然いなくなってしまう夢。そのことがショックで、雨の日にしか外に出られなくなったこと。」
■:「だから雨の日にしか会えなかったんですね。」
〇:「はい。」
〇:「あっ、雨があがりそうです。私、帰らないと。失礼します。」
■:彼女は、精霊とともに、居なくなってしまった。
■:僕はまた、座って目を閉じてみた。
■:やはり、何も聴こえることはなく、雨音だけが耳に入ってくるだけだった。
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