雨の声

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  ■:雨が好き。君と一緒に居られるから。 〇:雨が好き。あなたと一緒に居られるから。 ■:君に逢ったのは、雨の日。 ■:公園の、屋根のあるベンチに座っていた。 〇:あなたに逢ったのは、雨の日。 〇:私は、雨の声を聴いていた。 ■:「…あの。」 〇:「……(話し掛けられた事に気付いていない)」 ■:「あの。」 〇:「あっ、はい?」 ■:「いや、大丈夫かなって。傘、持ってない様に見えたので。」 〇:「ああ、傘。持ってないですね。でも、気にしないでください。」 〇:「家、近いので。雨が降っていても傘は持たないんです。」 ■:「そうですか。突然声を掛けてしまってすみませんでした。」 〇:「いえ、大丈夫ですよ。」 ■:別の日。 ■:雨の日。 ■:彼女はそこにいた。 ■:そこだけ ■:時間が、止まっているようだった。 ■:「あの。」 〇:「はい。」 ■:「先日はすみませんでした。」 〇:「あぁ…いえ。」 ■:「あの、何をしてるんですか?」 〇:「声を。声を聴いてるんです。」 ■:「声?」 〇:「はい。雨の声を。」 ■:「雨の、声?」 〇:「目、閉じてみてください。」 〇:「隣どうぞ。座って。」 ■:言われるがまま、僕は彼女の隣に腰掛け、 ■:そして、目を閉じた。 ■:「えっと…」 〇:「しぃー。静かに。」 ■:「あ、はい。」 ■:雨音を聴く。何も考えず、ただただ、それに耳を傾ける。 ■:緑を潤そうとする、優しい声 ■:水たまりを作ろうとする、悪戯っぽい声 ■:声が、聴こえる。 〇:「どうですか?」 ■:「すごくいろんな声が聴こえます。」 〇:「あなたにも聴こえるんですね。」 ■:「え?」 〇:「…なんでもありません。」 〇:「久しぶりに楽しい時間を過ごせました。」 ■:「それってどういう…」 〇:「じゃあ、私はこれで…」 〇:「風邪、引かないように気を付けてくださいね。」 ■:そう言って彼女は足早に帰っていった。 ■:「また、傘持ってなかったなぁ。」 ■:あれから僕は彼女のことが気になり ■:いつも彼女がいる公園に通うようになった。 ■:だけど、彼女にはなかなか出会えなかった。 ■:そして、公園に通うようになって ■:久しぶりに雨が降った。 ■:「あ!」 〇:「ん?」 ■:「今日は来てたんですね!」 〇:「今日は?」 ■:「僕、あなたのことが気になって、ここに毎日通ってたんです。」 〇:「物好きな人ですね。」 ■:「だけど、全然会えなくて…」 〇:「…私は雨の日にしか、ここに来ませんから(小声)」 ■:「え?」 〇:「何でもありません。」 ■:「…。」 〇:「…1つだけ。」 ■:「え?」 〇:「1つだけ、教えてあげます。」 ■:「はい。」 〇:「私はここに、雨の声を聴きに来ています。」 ■:「また、雨の声…。」 〇:「私がここに来ている一番の理由ですから。」 ■:「他にも理由があると…。」 〇:「さぁ、どうでしょう?」 ■:「考えてみます。だから、また会ってくれますか?」 〇:「あなたが会いたいと思えば、会えるんじゃないですか?」 ■:「なら…必ず、会いに来ます。」 ■:雨の声…か。 ■:彼女が去った後も、僕はしばらく雨に耳を傾けていた。 ■:その日以降、なかなか雨は降らなかった。 ■:それでも僕は、毎日公園に通うようになっていた。 ■:幾日かして、また、雨が降った。 ■:彼女は、そこに居た。 ■:「こんにちは。」 〇:「また、来たんですね。」 ■:「僕も、雨の虜になったんですよ。」 〇:「へぇ。でも、雨じゃなくても毎日来てた気がしますけど?」 ■:「え?なんで知ってるんですか?」 〇:「それは…秘密です。」 ■:「気になりますね。」 〇:「私、ミステリアスな女なので。」 ■:「それ、自分で言います?」 二人、笑う。 ■:「さてと。」 〇:「はい?」 ■:「今日も聴きましょうか。雨の声。」 〇:「そうですね。」 目を閉じる。 二人で、雨の声を聴く。 ■:不意に彼女が手を握ってきた。 ■:とても、 ■:冷たい手をしていた。 ■:どれくらい、時間が経ったのだろう。 ■:僕は、いつの間にか眠ってしまっていた。 ■:彼女は、いなくなっていた。 〇:私は、何をしているのだろう。 〇:彼に、何を求めているのだろう。 〇:ふと、彼の手を握っていた。 〇:名前も知らない彼の手を。 〇:何も言わずに帰ってきてしまった。 〇:雨の日が恐くなってしまったら 〇:私は 〇:どうなるのかな 〇:私は 〇:晴れの日に 〇:外に出られない 〇:あの日から 〇:私は
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