2月14日②

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2月14日②

 ああ、どうかしてるな――    きょうは世間ではバレンタインデーだけど、別になんということのないただの平日だ。なんの意味もないけれど、そう、決して他意はないけれど……あの人に会えたらいいのにと思ってた。珈琲のおともにいつもより少し高級なチョコレートを用意してあるのも、偶然売り場で見つけたときにあの人の顔が浮かんだから、それだけだ。  なんて、誰に聞かれるでもないのに自分自身の行動に理由をつけて、あの人が来ると決まったわけでもないのに午後の予定を何も入れずに時間を持て余していた。    だから……本当にあの人が来てくれて、それだけのことで自分が思っていた以上に動揺していたことに驚いた。あの人がチョコレートの紙袋を持っていることにはすぐ気づいたけれど、それに触れてもいいのか図りかねて、つい珈琲を入れる手が止まって脳内で謎のシミュレーションを始めてしまう。それで余計に気を遣わせてしまった挙句に驚かせてしまったのは失敗だ。    あの紙袋がおれ宛てだったなんて嬉しくて、なにがなんでも彼を引き留めなければと慌てて珈琲を勧めたけれど、若干声が裏返っていたのはまだ気づかれてはいないはず。  それに、手放しで喜ぶにはまだ早い。確かにあの人からおれに対する好意があるのは確かだけど、だからといってそれがこんな甘ったるいイベントと結びつくような種類のものであるはずがないのだから。  だけど……それでもいつもの珈琲のお礼だなんて、嬉しいに決まってる。もっと、ずっと、おれが淹れた珈琲を美味しそうに飲んでくれる顔が見たくなる。
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