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2月14日③
「はぁ……やっぱり美味しい」
「ふふ……そう言って頂けるのが一番嬉しいです」
そう、そうなんだよな。結局のところ、それが一番嬉しいんだよ。
たとえ個人的な趣味でやってるだけだとしても、後にも先にもこんなにも美味しそうな顔をしてくれるのはこの人だけだ。ああ、あとちょっと熱そうなのを我慢してるのも可愛いんだけど。
だからこそ、もっとこの人に喜んでほしくて、あの顔が見たくて、またおれのところに来たいと思ってほしくて……手を替え品を替え好みを探っているうちに気がついたらハマっちゃってたんだよね。
「きょうはなんだか押しかけちゃったみたいで……」
「いや、むしろありがたいですよ」
「えっ」
「実は私も、せっかくなので買っちゃったんですよ。だけどひとりで食べるのももったいないからよかったら一緒に」
なんて、我ながら白々しい台詞はつい早口になってしまう。
「えっと……僕は構わないけど……」
「っ……、けど……?」
珈琲に添えたお菓子はいつも美味しそうに食べてくれるから、絶対喜んでくれると思っていたけどさすがにこれは重すぎてやってしまったか……?
「その、僕がいただいちゃって大丈夫っていうか……ほら、このあとだれかに会う予定とか」
「ああ……」
うわー、そんなこと気にしてくれるなんて嬉しい、可愛い!
「それを言うならこちらこそ。いつも美味しそうに私の珈琲を飲んでくれるから、そのお礼です」
「あっ……ありがとう」
「ふふ、ほら、これなんかどうですか?」
よしよし、いつもどおりの調子が戻ってきたぞ。チョコレートの箱を見せる素振りでどさくさ紛れにソファーを詰めれば、めちゃくちゃおれを意識してくれるのもまた可愛いな。
ああ、おれって自分が思ってたよりチョロいみたいだ。
「ところで、あなたこそ今日のご予定は?」
「えっ!? 僕の予定……!?」
あっ、しまった。おれは何をクソ真面目に尋ねてるんだ。うわあ動揺してるし、もしかして予定あり!? ……ないよな、予定なんてないよな?
「はは……恥ずかしながらなにもなくて。自社に戻るのもなんだか寂しいからこのまま直帰しようかと」
「!!」
よっしゃあ! しかも直帰だって!?
だったら、そんなの……
「それじゃあ、私も一緒だ。どうぞ、ゆっくりしていって下さいね」
「……っ、ぼ、僕でよかったら!」
「ふふ……こちらこそ、ぜひ」
さあ、そろそろあっっつあつの珈琲のお代わりを淹れようか。もちろん保温性抜群のタンブラーは欠かせない。
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