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上る煙は、反撃の狼煙か、SOSか
自分の降りるはずの駅と違う駅に、気づいたら降りていた。今日はもう、このまま休んでしまおうか。なぜだか、どうしても、仕事に行く気にはならなかった。
はぁっとでっかいため息だけを、落として会社へと電話を掛ける。
「親しい友人が亡くなりまして、はい、申し訳ありません。はい、はい」
口からすらすらと出てくる嘘に自分でも感心する。どうせ、俺が居なくても会社なんて回る。その事実に少しだけ胸の奥がちくんと傷んだ。
目についた大きな橋を渡ろうと歩みを進める。その真ん中で立ち止まれば、川の流れに飲み込まれてしまいそうだ。
橋の欄干に倒れ込みながら、ポケットからタバコを取り出す。
「やってらんねぇな、ほんと」
一口吸い込めば、慣れ親しんだ味に心が少しだけ安寧を取り戻す。ふぅーっと吐き出した白い煙は、空に向かって伸びていく。
あいつは、何がしたくて逃げ出したんだ。
考えても思考はまとまらない。タバコをもう一口吸い込んで、薄い煙を吐き出す。
スマホがピピッと規則正しい音を鳴らして、ポケットの中で揺れる。タバコを咥えたまま、取り出せば懐かしい名前。
咥えたタバコの苦味が口の中で広がっていく。何回も目にした悔しいほど頭に残ってるあいつの名前。
「お前何やってんだよ、ほんと」
ぼつりと誰にも届くことない独り言を、煙と一緒に吐き出す。開いたメッセージには、「元気?」なんて気楽な言葉が書かれていた。
ため息を言葉に変えて、スマホに文字を打ち込んでいく。「お前どこで何やってんだよ」苛立ちが募った言葉に、あいつからの返信はまた楽観的なものだった。
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