二人の思い出

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二人の思い出

 「今ちょっと、お休み中」そんな一文に少しだけ嘲笑が出てしまう。羨ましいよ、そんなことが言えるお前が。  返事も返さずにふぅっと深いため息と共に煙を吐き出して、肺まで吸い込んでを繰り返す。  今更、何の用で俺に連絡してきたんだよ。  聞きたくて聞けない肝心な内容を聞き出す勇気がない。文字をカチカチと打ち込んでは、消す。もういいか。このまま、忘れて帰ってしまおう。  そう思った矢先にスマホは、着信を知らせる。見覚えのない電話番号に少しだけ身構える。 「はい、もしもし田口です」  恐る恐る出てみれば、懐かしい声。 「たぐっちゃん、元気ー? 俺は超元気!」  失踪したとか言われてるぞ、ニュースでは。そんな言葉は飲み込んで、悪い気分なのを隠しもせずに返事をする。 「急になんだよ」 「いやーたぐっちゃんに会いたくなっちゃって! あそこ覚えてる?」 「あ?」 「俺たちの秘密基地!」  キラキラと輝いて聞こえる声に、口の中が苦くなる。気づけば、タバコの火はもはや消えかけていた。  携帯灰皿に押しつけてタバコを消しながら、秘密基地のことを思い出す。  純粋だったあの頃の2人の思い出たち。どこかに置き去りにしてきた。 「たぐっちゃーん?」  一人で考え込み黙り込んでしまっていた俺に、痺れを切らしたように電話越しにうるさいほどの声量で俺の名前を呼ぶ。 「るっさいな」 「あはは、ごめんごめん。で、秘密基地覚えてる? 待ってるからおいでよ」 「は?」 「待ってるからね!」 「いやいや、俺仕事も……」  言いたいことだけ言って、ぷつりと電話を切りやがった。このやろう。  はぁっと大袈裟なため息をついて、秘密基地に行くかどうか考える。  いや、行くことは俺の中で多分決まってる。悩むってことはそういうことだ。  仕事とかもあるけれど、あの場ですぐ断らなかったのが答えだ。それに、いつかに忘れてきたワクワクが心の奥の方で燻っている。
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