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出会いの日
あいつとの出会いの日のことは、はっきりと覚えている。
三十八度の微熱に浮かされながら、這いつくばるように向かった学校。グラウンドの管理小屋の上に乗ったあいつはブラブラと足を揺らしながらカメラを構えていた。
鼻水は詰まるし、熱は下がらない。それでも、皆勤賞が俺の目標だから休むわけには行かない。なんとか息も絶え絶えになりながら登校してきた俺を見て、あいつは笑った。
「君、いいね! そのまま止まって!」
何を言ってるんだこいつは。
怪訝そうな顔をした俺を見つめて、深呼吸をひとつ。その後にぱしゃっと軽快な音が鳴った。写真を撮られたと気付いたのはその時だった。
「やめろよ!」
「なんで、素晴らしい写真だと思わないか?」
小屋の上から手を伸ばして俺の方へとカメラの画面を見せつけていた。俺がこんなに苦しんで登校してるのに、楽しそうなそいつが心の底から憎らしくて。初対面なのに、嫌悪感マックス。警戒心マックス。
それが俺たちの出会いだった。
秘密基地に向かう道すがら、窮屈に締められたネクタイを解く。あいつは、あそこで待ってるんだろうか。
木々に囲まれたそこは、今も変わらない姿をしていた。吸い込んだ匂いは緑色をしていた。
何回も瞬きを繰り返す。俺の青春そのものを表してるかのように、あの頃入り浸っていたお気に入りのテントはぺっちゃんこに潰れて所々破けていた。
「よ! たぐっちゃん来たねぇー」
そんな声に振り返れば、懐かしいあいつの姿。ラフな姿であの時と変わらず微笑んでいる。
「ここまで呼びつけてなんの用だよ」
「これ、受け取って欲しくてさ」
差し伸ばされた手に触れれば、ひんやりと湿っていてる。鼻に甘ったるい匂いが突き刺さる。咄嗟に手を弾いてしまえば、悲しそうな顔でまた微笑む。
「ごめん」
「お前」
「何も言わないでこれだけ受け取って欲しいんだ。灯に」
ぎゅっと俺の手の中に押し込めるように、あいつは鍵を握らせる。
「なんの鍵だよ」
「時が来たらわかるよ灯」
「急になんだよ翠」
久しぶりに呼んだあいつの名前は、どこか他人行儀で。少し、青い匂いがした。
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