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色付いていた日々
久しぶりの学校は、どこか埃っぽくて青い匂いがする。パタパタという足音を立てて、走り回る学生たちに俺らの幻が映る。
「たぐっちゃん!」
パァッと花が咲いたように笑って手を振る、あいつの幻が見える。首を横に振れば、消えてまた無色の世界に戻る。
深く吐いた、ため息を吸い込み直す。校舎の写真しか送られてこなかったが、なんとなくどこか見当がついてる。
扉を横に引っ張れば、がららっと重たい音を立てて扉が開く。
立て付け悪いの直してないのかよ。
そんなことを考えながら、目当てのロッカーの前に立つ。周りの風景は俺が卒業してから何も変わっていない。後輩の部員もいなかった。
部としてすら、認められていなかったけれど。あいつと二人で過ごす写真部の時間はとても楽しかった。
がららっと重たい扉を引っ張る音がして、後ろを振り返る。
「おう来たのか」
「先生」
「田口が多分来るからって聞いてな。ほら」
投げられた紙の束は、うまく俺の手の中へ収まる。紙の束を捲れば、あいつと俺の色付いた日々。
「翠が、これを渡してくれって言ってたからな……」
含みのある言葉に、首を傾げる。先生の方に視線を投げれば、泣き出しそうな先生の瞳。
「なんすか、先生。意味わかんないっすよ」
「翠から聞いてないのか?」
「あいつ」
思い当たる節なんていっぱいあった。そうだったあいつは、昔からそうだ。絶対人に弱みを見せない猫のようなやつだった。
息を吸って吐いてをただ繰り返す。息を呑み込んで、ロッカーに鍵を差し込めばするりと入り込む。
開いたロッカーの中には、あいつのカメラ。そして、俺が捨てたカメラ。
「先生、あいつ今どこにいるか知ってます?」
涙を呑み込んで、思い出を胸の中にぎゅっと押し込めて顔を上げる。
「三角病院。あそこに入院してるらしい」
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