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変わらない日々
ニュース番組の成功者たちの言葉を鼻で笑って、テレビを消す。時計に目を移せば、もう八時。仕事に行かなければ、遅刻してしまう。深いため息を吐き出して、ソファから立ち上がる。
歯磨きをしながら、スマホを眺める。なんてことのない生産性もない呟きがタイムラインに並んでいる。
「随分、気楽なもんだな」
苦々しく口の中の泡と共に吐き出した言葉は、排水溝に飲み込まれていく。髪の毛を乱暴にワックスで撫でつける。スーツを着込んで、誰もいない部屋にため息だけを残して外へと出る。
太陽はいつもと変わらずに、光り輝いている。今日も、変わらない一日の始まりだ。
電車の中はいつも、生き急いでるスーツ姿のサラリーマンたちがおしくらまんじゅうをしている。
大人になった今、押されて泣くことなどないけれど。窮屈そうに、顔を歪めて浅く呼吸を繰り返して、電車の揺れに身を任せている。
カーブに差し掛かった時、ギイイイッと金属が擦れる音を立てて乗客を揺らしながら電車が曲がった。
よろめいてぶつかってしまった隣のおっさんに、言葉を発さず頭を下げる。お互い目が合えば、相手も構わんよと言わんばかりの顔をする。
──俺が悪いわけじゃ、ないけどな。
駅に電車が乗り付ければ、次から次へと人が降りて座席もちらほらと開き始める。俺の目的地は、まだここじゃない。
座席にどかっと座り込んでスマホを開いて、上から下へとただ指を滑らせる。見たい記事も、連絡が取りたい奴もいない。
いや、一人いたな。
そう思い直して何の面白みもないニュースたちを開く。一つの記事に俺の目は囚われてしまった。
「有名写真家が失踪?」
まさかな、そう思ってその記事を開けば予想してしまったあいつの名前。
「なにやってんだよ」
お前は、夢を叶えたくせに。
俺が叶えたかった夢を叶えたくせに。
ぽつりと出た言葉は、またカーブに差し掛かった電車の金属音にかき消された。
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