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 そんな日々にも、俺自身が慣れてきたある日のことだ。俺はふと、口にしたのだ。 「お前がこんな奴だって知っていれば、ユーイチだって上手くやって行こうと思ったかもしれないのにな」  その瞬間。  奇妙な違和感。  空気が灰色になったような、耳元でサラサラとしたホワイトノイズが聞こえたような。  カリンは無表情だった。全くの。  その冷たい目。  やがて、その血色の悪い唇がうっすらと笑う。 「ユーイチ? 誰だっけ、それ?」  視界がぐにゃりと歪んでいくような錯覚を俺は覚える。  いや、これは単なる俺の気のせいか。だが。  俺は、今までのことを思い返してみる。  俺がカリンにしたことについて、カリンは何一つ、明確なことを言わなかった。心理的な脅しを駆使して、巧妙にその話題を避けていたとも言えないか。  カリンはユーイチを許さない、そう言った。だがなぜ許さないとも言っていない、自分自身では。俺が勝手に解釈することに任せていた。俺がそう解釈するように仕向けていたとも言えるかもしれない。  そう、全ては、俺がカリンに手を出したと俺自身に解釈させるために。そして、俺からカリンに交際を持ちかけさせるために。  俺はカリンに何かしたのか。あるいは、何かをしなかったのか。あるいは、何もしなかったのか?  あの夜の記憶。知らない店に入って飲んで、その後の記憶がない。  覚えているのは、そこで飲んだカクテルのことだけ。  マリブサーフの、青い、青い色。  そこにカリンは、いたのか、いなかったのか。  青を見つめる、赤の視線。  ユーイチと、カリン。  ユーイチは本当に存在しているのか?  俺が今、それを聞いたら。  カリンは何を考え、そしてどういう行動に出るのか。  なあ、カリン。ユーイチは、お前にとって何なんだ?  俺はカリンを見る。その赤い、冷たい目。  カリンが俺を見ている。 (了)
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