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『……気がついた?』
「うお?!?!?!」
俺に聞こえたのは、耳をつんざくような爆音だ。
この部屋はベッドを中心に、頭側の両脇には巨大なラウドスピーカーが置かれている。爆音はそこから出ている。
だが、そう言った人物は別の場所にいる。言葉を発したのは、部屋の入り口、黒くて重そうな扉を開けて入ってきた人影だ。
女だ。マイクを手にしており、そのマイクが無線でラウドスピーカーに接続されているらしい。音量がデカすぎて、音割れが激しくて頭が痛くなる。
『ねえ。自分がどういう状況なのかわかる?』
「わかるってか、わからんってか、だが全然わからん! なんであんた、俺をこんな目に合わせるんだよ!」
身動きできないながら、俺は懸命に女の方に顔を向けて、懇願しようとする。そして改めて、女の様子を見た。
華奢な女だった。ガリガリに痩せていると言ってもいい。二十前でもおかしくないが、年齢不詳な空気もある。
頭の右半分をピンク、左半分を水色に染めて、両サイドをツインテールにした女で、まるでメイド喫茶の制服のようなごてごてとフリルの付いた衣装だ。頭にもヒラヒラしたメイドのヘアバンドみたいなものをつけて、それから首には黒い革のチョーカー。目の色は赤、多分これはカラコンだろう。
全体の印象を総括すると、頭のおかしいメイド、あるいは頭のおかしさを気取ったバンギャ、というのが一番近い形容だろう。
そんなチャラチャラした女にも関わらず、浮かべる表情はなんとも不機嫌そうな、いや、これは正確じゃないかもしれない。得体の知れない無表情で、それでいて眼光は妙に鋭かった。
それに、だ。
いや、これは置いておこう。正直な話、俺の脳が理解を拒否している。
とにかく、俺にはメイドの知り合いはいた覚えがない。バンギャの知り合いはもしかしたらいたかも知れないが、少なくとも俺はバンドマンじゃないし、バンギャと深い仲になった覚えもない。
そこで、俺の背筋が凍る。
この状況。俺の格好と、状態。この女の不機嫌さ。
「……深い……仲……?」
『男ってさあ、自分がしたこと忘れるよね? あいつもそうだった』
そんなことを小さく、低い声で呟く女。だがその声はマイクを通してラウドスピーカーから爆音で響いてくる。
「あいつって、なんだよ!」
『あいつはさあ……ユーイチは』
そこまで比較的静かに喋っていた女だが、急にテンションが変わる。
『あいつは! ユーイチは! あたしを裏切った!』
「うお、びっくりした!」
不意にハウリングした音声に俺はビビリ上がるが、女は俺にはお構いなしだ。
『あたしは騙された! 信じてたのに! 絶対許さない、絶対、絶対絶対絶対絶対』
「いや、俺ユーイチじゃねえから!」
『あんたが誰か、そんなことどうでもいいの。あたしは許さない。ユーイチみたいな男は、みんな、みんな、みんな』
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