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だまされる。
『今度はいつ会えるの?』
心配そうな言葉に、しょんぼりしたクマのスタンプ。相変わらず可愛い、そんなことを思いながら私はLINEの返信をする。
『ごめんなさいね、まだわからないの。仕事が忙しくて。多分二十二日くらいには片付くと思うんだけど、それ以降なら多分平気』
『そっか。そうだよね、霧絵さん、月の上旬の方が忙しいことが多いんだものね。無理言ってごめんね』
『いいのいいの。手が空いたら必ず連絡するわ。それまで浮気なんてしちゃ嫌よ?』
『もちろんだよ!僕には霧絵さんしかいないんだなら』
『私もよ静夜。愛してるわ』
なんてクサイ台詞ですこと。打ちながら、自分でも笑いが込み上げてきてしまう。声に出して吹き出しそうになるのをなんとか堪えているところ。そう、我慢しなければいけない。ここはそれなりに高級なレストランの中なのだから。
年下のウブな男の子を弄るのはなんと楽しいことか。遊ばれているとも知らず、静夜はきっと電話の向こうで舞い上がっているに違いない。彼は思いもしないだろう――自分が会いたいと連絡してくるタイミングが、彼の給料日直後ばかりであることなど。
そう、今は会っても意味がないのだ。彼の財布がすっからかんな時に顔を合わせたって、大したものなど買っては貰えないのだから。バイトをかなり頑張っているようだが、それでも大学生に払えるお金には限界がある。有名なブランドバッグや指輪もそれなりに買わせて貰ったし、彼も借金をし始めてしまったようだしそろそろ潮時だろう。
私と結婚できると信じているらしい彼には悪いが、もう少ししたらドロンさせてもらうつもりでいっぱいだった。男など、所詮女のATMでしかない。静夜はそこそこ顔も可愛かったし体も悪くなかった。それなりに楽しめたし、もう十分だろう。
むしろあちらも、十分すぎるほど楽しませて貰ったと満足してほしいものだ。彼のような平凡なお子様が、私のような女と付き合って夢を見れただけ上等というものだろう。
――人を騙すなんて、本当に簡単。
私はスマホを仕舞いながら、心の中でほくそ笑んだのだった。
結婚詐欺師ほど美味しい仕事が、果たしてこの世にあるだろうか?
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