月が綺麗だから

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月が綺麗だから

「蓮、準備できてる?」 「あ、望、来たの? うん、すぐ出られるよ。」 満面の笑みで望を迎える、蓮。 久しぶりのデートに心が弾んだ。 このところ望は仕事が忙しく、 二人の休みも なかなか合わなかったのだ。 「かわいい靴だね。買ったの?」 「あら、初めてだった? ちょっと前から 履いているけれど…」 「足元気をつけて、 慣れない靴で転んだら困る。」 自然に差し出す手に手を重ねる。 「うん、ありがと。」 「ねえ、どこへ行くの?」 「ふふふ…いいところ…。」 「着くまで秘密なの?」 どこへ行くんだろう…? 「さ、着いたよ。足元暗いから…」 車が着いた先は城跡公園だった。 「夜、入れるの?」 「うん、 最近夜の特別観覧を始めたんだ。 行こう。」 「ねえ、望、 ガイドさんについていかなくて 大丈夫なの?」 「うん。僕に任せて。こっちだよ。」 望は蓮の手を取って、 澱みなく歩く。 まるで、 そこに住みなれた人のように… 若君様みたいね… 「足元暗いから、気をつけてね。」 やがて、 人気のない ちょっとした広場に出た。 「さ、ここでいいかな。 蓮、上を見てごらん。」 「うわぁ~、綺麗なお月様。 満月ね。 でも… いつもより… 明るくない? これを見せるために ここへ来たのね? だから、 上を見ないようにさせていたのね。 変だと思ったわ。 でも…覚えているの? 過去のこと。 ここが、月が綺麗だって…」 「まさか…昔の記憶なんて、ないよ。 ただね、 今日がスーパームーンだって わかっていたから、 どこか 綺麗に見える場所はないかなって 考えていたのさ。 だけど、 なかなかいい場所を思いつかなくて、 そうしたら、 ここに夜入れるって分かって、 きっと街灯の明るい街中より いいはずと思ったんだ。 それで、 何回か来て ライトアップしていない、 あまり人のいなさそうな場所を 探しておいたんだ。 気に入った?」 「うん、とっても。 こんなに綺麗なお月様って 初めてだわ…。 でも、 スーパームーンって、なに?」 「月は 楕円軌道を描いて 動いているから、 地球との距離は 一定じゃないんだ。 だいたい一年に一度 一番近づく日があって、 それが今日というわけ。 その日が 満月か新月のとき スーパームーンというんだよ。 いつもより 明るさが30%も増すんだ。」 「だからこんなに明るいのね。 ほら、街灯がなくても 影がこんなにくっきりとできている。 昔は、 もっと暗い夜を過ごしていたのかと 思っていたけれど、 満月の夜はこんなに明るかったのね。 (だから、 男の人が夜忍んで女の元に行ったり、 女性を垣間見たりできたのかな?) 夜の城跡も、素敵ね… 若君様と芙蓉も 月夜にここの庭を散策 したりしたのかしら?」 「それは…どうなんだろうね。 芙蓉は正室ではなくて、 側女(側室)だったし、 早くに亡くなって 子どももいなかったから。 あまり、 一緒にいられる時間は なかったのかもしれないね。 若君と 正室か別の側室が 二人で過ごしている時間に、 芙蓉は 自分の部屋から月を見上げて 若君のことを 思っていのかもしれない。」 冴え冴えと 清らに光る 満月を    あなたのように ただ仰ぎ見る 「どうしたの…」  蓮の涙に驚く望… 「…ごめん。変ね。 自分のことじゃないのに、 切なくなっちゃって。 近くにいるのに手が届かない… まっすぐに見詰めることもできない… 自分の命を 差し出してもかまわないほど 好きなのに、 その想いを一人で抱えたまま… こんな夜は、 月が美しいだけに 堪らなかったんじゃないかな…」 月灯りに照らされて、 天女のごとく 嫋か(たおやか)に美しい… 「僕はここにいるよ…。 泣かないで…」 肩を抱き寄せる。 「うん…。 私だけこんなに幸せで、 いいのかな。 怖いよ…」 「いいんだよ。 今まで苦労してきたんだから、 幸せになる権利がある。 蓮には。 人のために尽くしてきたんだ。 これからは、 いい思い出だけ作ろう。僕と。」 「望… 私を見つけてくれて…ありがとう。」 guuuu・・・ なんで、また、ここで… あたしって… 望は、 横を向いて こらえきれずにくくくっと 笑っている… 「か、かえろうか… もう少しゆっくり 見ていたいけれど… お腹もすいてきたし… ご飯はできているから… それとも、どこかで食べていく?」 「ううん、帰ろう。家に。 蓮のごはんが食べたい。 …それより…蓮が食べたいかな… それに、今宵は満月。 僕のかぐや姫が 月へ帰ってしまわないように しっかり見張ってなくちゃ。 いいよね。」
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