春、桜舞う

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春、桜舞う

望と蓮が一緒に暮らし始めて 初めての春のある日。 「蓮、 今度の休みに飛鳥山公園に 桜を見に行かないか?」 「わぁ、いいわね。 ちょうど見ごろじゃないかしら。 あ…、 でも今度の土日は営業しますって もう貼り出したんだった… ごめん…。 次の休店日は月曜なの。 望に言ってなかったわね。」 「そうか…。 天気が良ければ、 出かける人が多いもんな。 稼ぎ時だよね。う~ん。 じゃあ、 月曜の朝に行くっていうのは、 どう? 半日休暇を取るよ。」 「平日の午前中なら そんなに 混雑していないかもしれないし… いいわね。 その後仕事だから、 お弁当を食べながら飲むって訳にはいかないけれど、 桜の下をゆっくり散歩しましょ。 お天気になるように てるてる坊主を下げなくちゃ。 うふふ。楽しみ…」   ----------- 約束の月曜日は、 抜けるような青空になった。 「土日が ちょうど満開だったのかな。」 「うん。 でも、私満開の時より、 こういう散り初めが好きなの。 風に乗って花びらが降り注いで、 綺麗じゃない?ね?」 両手を捧げて 花びらを手に受けようとしている蓮が 天女のようで美しかった。 「桜が?それとも、蓮が?」 望が首をかしげて聞く。 「え?やだ…」 蓮は照れて頬を染める。 繋ぎとめておかないと、 空に上がってしまいそうだ… 「向こうへ行ってみよう。」 蓮を促す望。 「桜なんて何年ぶりだろう? 眠っていた期間があるから、 三年ぶりかな? もっと時間がたったような気がする。 NYにも桜はあるけれど、 こんなに街の至る所に あるわけじゃないし… 蓮はNYにいたとき桜は見た?」 「どうかな。あんまり記憶にないわ。 見たのかもしれないけれど、 いい記憶がないの。 養子先の両親も、 離婚してしまって 結局一人だったから…」 〔ニューヨークの桜の歴史〕 東京市が、 ワシントンDCに 桜を再度寄贈することを聞いた ニューヨーク在留邦人日本クラブと 高峰譲吉博士らは、 ワシントン寄贈用の桜とは別に ニューヨーク植樹用として 苗木作りを 興津の農事試験場に依頼しました。 1912年(明治45年)、 ワシントンへの桜と同時に輸送され、 3月に無事ニューヨークに到着、 4月28日に ニューヨーク市ハドソン河畔の クレアモント公園内にある グラント将軍墓所前で 盛大な歓迎植樹式が行われ、 29日に植樹されています (この土地は現在「さくらパーク」と呼ばれています) 在ニューヨーク日本国総領事館 より抜粋引用 「…そう… 悪いこと聞いてしまったかな… ごめん。」 「ううん。 いつかは話そうと思っていたし。 私の昔のことも 知っておいてもらいたいもの。 それに… これからは、 いい記憶だけしかできないから、 いいの。 大丈夫。でしょ?」 「そうだね。そうしよう。」 「ここ、覚えている?」 「もちろん。 日本に戻って望と 初めて逢った場所だもの。」 「蓮…」 「うん?なに?」 望が、蓮の方を向き 右手を差し出した。 「蓮。僕と結婚してください。」 「望?」 蓮は、どうして?という顔… 「手を取って…、蓮。 いまさらって思う? 入籍して、一緒に住んでいるのに。 きちんとプロポーズしたかったんだ 春の日に。 春は、始まりの季節だから。 それに… 君も、新しい刻(とき)を 刻み始めたんだろう? だから…」 蓮は目を見張った。 「どうして、知っているの? まだ、誰にも言ってないのに… 病院へも行ってないから…」 「夢のお告げ、かな。 黄色い蝶が飛んできて、 野原で遊んでいる 君の肩に留まったんだ。 でも、ふっと消えてしまって… まるで、 君の身体に溶け込むみたいに… それを見て、 君が嬉しそうに笑って… その場面を見ている僕も、 夢の中で笑っているんだ。 目が覚めて…、 ふっと閃いたんだ。 そうじゃないかって… なんでだろう?」 「愛してる… ずっと僕のそばにいて… 気の利いた言葉は言えないけれど…」 「嬉しい…。もう一度言って。」 「愛してる。」 「もう一回。」 「愛してる。」 「ずっと側にいるわ。 いい記憶を思い出を いっぱい作りましょ。 そうすれば、 永遠に一緒にいられるわ。 もう… 独りにしないで…」
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