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僕に任せて下さい
結婚披露パーティーが近づいた
ある日曜日。
「ええと、
会場の手配はOK、
料理の確認はした、
案内状は全部送ったし…
衣装合わせも済んだ…
用意し忘れたことはないわよね。」
蓮は、
指を折りながら
必死で何度も確認作業を
繰り返している。
そんな様子を見て、
望は微笑ましいものをみるように
笑っていた。
「蓮、
ごく内輪の
知っている人だけが集まる
パーティーなんだから、
そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。
多少手落ちがあったって
全然問題ないんだし。
せっかくのデートなのに、
難しい顔して…」
「ごめん…
私、こういう人前に出るとか、
イベント事に慣れていないから
どうしても緊張してしまって…
望は落ち着いているわね。
小さいころから
パーティーとか
よく行っていたんでしょ?
お父様、
大きい会社の社長さんだったもの。」
「そんなことないよ。
僕は結構内気で
人前に出るのは
好きじゃなかったんだ。
自分から知らない人に
声をかけるなんて
できない人間だったんだよ。」
「うそー。それは嘘でしょ。
だって…、
ニューヨークで
私にポストカードをくれて
誘ったじゃない。
話もしてないのに、
いきなりデートに誘うなんて…
(絶対プレイボーイだと思う。)」
望を睨む蓮。
「疑っているの?
女ったらしだって?
そんなことないから。
ほんとだよ。
あの日、
蓮の働いていたバーに
行ってたんだよ。
従兄弟と飲んでて、
そうしたら、君を見つけて…
あ、昼間のあの子だ…って思って、
思わずその時、
昼間描いたポストカードを
従兄弟に見せたんだ。
知り合い?って聞かれて、
従兄弟と待ち合わせしてた時に
見かけて、ただ…
かわいいなと思って描いたんだ…
って言ったら、
お前にしちゃ珍しいな…って。
それで、
どこでどうかぎつけたんだか
君の休みを探り当てて、
その日にデートに誘えって
焚き付けられたんだけど、
結局声をかけられなくて…
それで、
そのポストカードを
店の人に言付けたんだ…
あの時だって、
あれが精一杯だったんだよ。
自分から声をかけることなんて
ほんと、なかったんだ。
蓮だけだから…」
「う…ん。ごめん。
疑ったわけじゃないの。
ただ、
たまに不安になることはある。
こんな素敵な人、
私でいいのかなって。
望は、仕事もできるし、
ハンサムだし、
背が高くてスタイルいいし、
優しいし、
絵も上手で…」
とめどなく続く褒め言葉に
居心地悪そうな望。
「蓮、
そこまで言うと
褒め殺しっていうんじゃない?」
「そんなつもりないってば。
本当にそう思っているのよ。
それに引き換え、私はどうよ。
両親も居なくて、天涯孤独。
美人でもないし
がさつだし…
いいところなんて…」
「ストップ・・・。
僕は、蓮が好きなんだよ。
かわいいし…
でも、好きになるのに
理由なんてないよ。
だめなの?
蓮が好きじゃ。
僕の趣味が悪いって
言いたいわけ?」
むくれる望。
「いえ…
そういうわけでは…
返す返すも、
ごめんなさい…」
平身低頭。
「ふ…
(そういう素直なところも
かわいいって、
本人は気づいていないんだなぁ…)
そんなことよりさ、
行っておきたいところが
あるんだけど。
これから行かないか?
天気もいいし。」
「どこへ?」
「僕のご先祖様の“若君”と
蓮のご先祖様の“芙蓉”さん
それに、蓮のご両親のお墓参りしよう。
結婚の報告に。
同じ墓所だから、これから行けるよね。」
望の運転で墓所に向かった。
「初めて来たけど…
結構慎ましいお墓ね。」
「大名と言っても、
そんなに大きな家じゃなかったし…
一度血筋が絶えて、
取り潰し寸前になったからね。
遠縁から養子を迎えて、
なんとか再興したんだけど。
だから、僕は、
“若君様”の直接の子孫じゃないんだ。
元をたどれば繋がってるけどね。
以前、
ここのご住職に聞いたんだけど、
“若君様”後に藩主になった人だけど、
亡くなる前、
自分の墓の隣に
“芙蓉”さんの骨を分骨して
埋葬して欲しいと
言い残してたそうだよ。」
“若君様”のお墓の横に
墓標もなく、
ただ小さく盛り上がった
場所があった。
「恐らく、ここに
芙蓉さんの骨が分骨して
埋葬されているんだね。
以前、夢に出て来たんだ。
“若君様”が
『芙蓉には、とても感謝しているし、
今でも忘れられない。
会いたい。
私の代わりに、
芙蓉の生まれ変わりの女性を
大切にして欲しい』って。
その後、蓮と出逢ったんだ。
だから、僕と蓮は、
出逢う運命だったと思うし、
ふたりの叶わなかった想いを
背負ってると思う。
僕たちが幸せになることで、
ふたりも
幸せになるんだと思うんだ。」
”若君様“の墓に参った後、
少し離れた家臣たちの墓所に行った。
「…ここが蓮の家のお墓だね。
お花、供えよう。」
「初めまして。
望と言います。
ご挨拶が遅れました。
蓮さんと結婚します。
どうかお許しください。
僕は、蓮さんのご先祖にあたる
“芙蓉”さんに助けられた
“若君様”と呼ばれていた者の
生まれ変わりだと思っています。
過去世では芙蓉さんに助けられ
現世でも蓮に命を救われました。
一生をかけて、
蓮さんを守って、
恩返しをしていきます。
あなたの大事な人を、
どうか僕にまかせてください。」
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