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「どうやら、椎名のことが好きらしい」
美術の時間。二人一組で向かい合って、互いの輪郭を描く。ポロリと落としそうになった鉛筆をキャッチして、思考停止した。
告白された。今、意中の人物である天沢薫に、好きと言われた。
一度深呼吸をして、待て待てと心を落ち着かせる。
「なによ、その予想助動詞は」
変に取り乱すことなく、いつも通りに。
鉛筆の芯を滑らせながら、キャンバス越しにチラリと顔を盗み見る。
ああ、今日も美しい。なんて見惚れていたら、メガネの奥に見える三白眼が、むいっと上がって。
「一年の正木が」
ポツリと落とされた名前。少しフリーズして、頭の中を探してみるけど見つからない。
「……え、だれ?」
あぶない。早とちりで、恥をかくところだった。
というか、先に言いなさいよ。期待はしていなかったけど、紛らわしい伝え方をしないでほしい。
「正木浬。告白同好会の一人だ。人数が足りず、今月で廃部が決まっている」
「なにその意味不明な部」
「好きなものに愛を注ぎ、それが人ならば愛の告白をしまくる、という部らしい」
「ただのヤバい集団じゃん」
こわっ、と私は両腕をさする。
天沢が言うには、同好会最後の思い出に、その正木という人が私に付き合ってほしいのだとか。
いやいや、おかしいよ。絶対におかしい。
髪を黒く塗り潰して、木枠へ鉛筆を置いた。
「どれからツッコんでいいか分かんないけど、そもそもなんで天沢に頼むのよ」
「正木曰く、恥ずかしい。だそうだ」
淡々と答えながら、手を動かしている。人の気持ちも知らないで。
「……天沢は、それでいいの? 私が、男子と二人で会っても」
「なにか俺に害でもあるのか?」
意味深な含みを持たせたつもりだった。
止めてほしいとは言わない。ただ、少しくらいヤキモチ妬いてくれたっていいじゃない。
「聞いた私がバカだった。……いいよ、行ってやる! その人とデートしてくるから。ほんとにしちゃうからね!」
勢いよく立ち上がったら、キャンバスがパタンと倒れた。それでも顔色ひとつ変えない天沢に、心が折れそうだ。
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