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サガルマータ級
「何だよ。あらたまって」
放課後の教室、こんにゃくゼリードリンクで部活前の小腹を満たす俺の前に、緊張で拳を握りしめる木村が立っている。伝えておきたいことがある、大事な話だからと言っておきながら一向に話し始める気配はなかった。
勿体ぶんなと痺れを切らした俺に、木村は震える声で告白を始めた。
「加瀬、もし俺が変わっちまってもお前は友達でいてくれる?」
「は?」
「俺が、俺じゃなくなったとしても──」
「や、待って待って。だから何の話これ?」
木村は真剣な眼差しで俺を見た。黒い瞳が揺れている。窓の外では吹奏楽部の音出しと、野球の掛け声が遠く交錯していた。ああ部活もう、行かないと。
「木村、何があったか知らんけど友達は友達だから。おい泣くな! 何なんだよもう」
俺は混乱して頭の後ろを掻いた。
木村は泣きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……あのさ、俺んち母子家庭じゃん?」
「うん」
「母ちゃんが彼氏と結婚することになってさ」
「おおう」
「転校はしないんだけど、苗字変わることになってさ。だから俺、明日から木村じゃないんだ」
「木村じゃない……」
俺は反射的に木村の言葉を繰り返した。
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