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「みんな揃ったし、食べましょう」
テーブルには、山盛りの唐揚げとフライドポテト、グリーンサラダ。
他には、お祝いと称した豪華なお寿司が並んでいる。
二人だけの時では考えられない量だった。
母はこの日を楽しみにしていたのだろう。喜びがこちらまで伝わってくる。
普段は仕事でぐったりしているから、そんな姿を見るのは新鮮で嬉しかった。
「大人はビールだけど、詩祈くんはジュースでいいかな?」
「はい」
「お父さん、醤油かけすぎだよ。もう少し体のこと考えて」
「これでも少し瘦せたんだよ」
お腹をさする聡史に、陽奈子は楽しそうに笑う。
「恵美さんのためにダイエットしてたもんね」
「私が一緒にダイエット始めようって言ったのよ。もういい歳だから気をつけないとね」
「お父さんは恵美さんの言うことは聞いてくれるから、これからもお願いします」
「こちらこそ」
お辞儀し合う二人に、困ったように笑う聡史。そんな3人を詩祈は、ぼーっと眺めていた。
「あれ、詩祈くん、全然食べてないよ。何か取ってあげようか」
「……いや、圧倒されて」
詩祈の言葉に、ハッとした表情を浮かべる陽奈子。
「ごめんね、うるさいよね。家ではいつもお父さんとこんな感じなの」
「詩祈はあまり喋らないから、お母さんと二人だと静かな食卓なのよ。今は楽しいよね」
母の言葉にコクリと頷く。
「気を遣ってくれてありがとう。もう少し静かにするね」
「詩祈くんは落ち着いていて大人っぽいもんな」
褒められることに慣れていないため、聡史の言葉に照れ臭くなる。
「……いえ」
「失敗。もっと姉らしくいこうと思ったのに」
「頑張れ、陽奈子」
自然と笑い声が立ち、笑顔が増える食卓。
いつもは母と二人か、一人で食事することが多かった。
今まで経験のない状況。うるさいくらいの賑やかさ。
食べながら相手の話を聞いて、受け答えをしなくてはいけない。
面倒なようで、その時間は思っていたよりも嫌ではなかった。
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