「ひみつの消しゴム」

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 「…実は」  嫌な予感が私の中に渦巻き始めたが、二度目の嘘を吐く勇気がない私はそう言って鞄の外ポケットに手を突っ込んだ。殆ど何も入っていないポケットにあるそれを見つけるのに時間はかからなかった。その固い殻を被ったプラスチック製品が指に触れた時、当時を思い出した。あの時私はここで手を止めた。でも今回はもう逃げられない。意を決してそれを手で掴み、取り出してしーちゃんの前に出した。私の手の中に収まっているそれが何かを見ようとしーちゃんは目線を私の拳に向ける。私はゆっくりと、人差し指から順番に指を開いていった。手のひらには当時と姿を殆ど変えない、紙のケースにピッタリ収まった消しゴムが姿を現した。  「これ…」  それを見るなり、しーちゃんは言葉を漏らした。しーちゃんは覚えていた。この消しゴムのことを。それを知った瞬間筋肉が緊張した。もう後には戻れない。  「覚えてる?あの時なくしたってしーちゃんが泣いてた消しゴム。実はね、私が持ってたの。」  私が言うと、しーちゃんは混乱した表情で私を見た。  「私ね、あの頃もしーちゃんの事大好きだった。でもしーちゃんには好きな人がいた。このカバーの下に書かれてる名前の人にしーちゃんを取られたくないって思ったの。だから私、思わずしーちゃんの筆箱からこれを取って隠した。こうすればきっと大丈夫だろうって。」  話を進める度声が震えた。今にも泣きそうだった。しーちゃんの驚いた顔が私を捉えて離さない。
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