「ひみつの消しゴム」

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 「ねえ、あーちゃん。その消しゴムのカバー、とってみて。」  まだ私の手の中にあり、いつの間にか温まっているその消しゴムをさして、しーちゃんは言った。  「え、いいの?だってしーちゃん、まだ…」  「いいから。とってみて。」  今更ながら、私はまだ可能性があるしーちゃんのおまじないの効果を心配したが、促されるまま消しゴムの尻を押してピッタリはまったケースからその先端を出した。使った跡はあるがまだまだ働けそうなそれを指で摘んでゆっくり引っ張ると、当時のしーちゃんの文字が現れた。書けるようになって暫く経った頃だが消しゴムという小さい枠に沢山ひらがなを書くのは大変だったろう事が伺える。消えないよう油性のマジックで書かれたその文字は、カバーのおかげで月日を経ていても薄れることなくしっかりとそこに刻まれていた。  当時のしーちゃんの文字に懐かしさを感じたのも一瞬で、私はその文字を読んで目を丸くした。そこに書いてあったのは私が思っていた名前と違ったのだ。私はしーちゃんを見た。しーちゃんは優しく微笑んでいた。  「そのおまじない、結構信ぴょう性あると思わない?ちゃんと効いてるよね。」  何かの間違いかと思ってもう一度消しゴムに目を落とす。やはり読み間違いではなかった。  そこに書かれていたのは、「かわ(かみ)あい子」。私の名前だったのだ。
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