「ひみつの消しゴム」

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 私が驚いているのには他に別の理由があった。私はそれをしーちゃんに見せようと、空いた左手で再び鞄の中を探った。触れた懐かしい感触を引っ張り出して、私は拳に包んだそれをしーちゃんに突き出した。  「これ。」  しーちゃんは不思議そうな顔をしながら私の拳から両手でそれを受け取った。しーちゃんの手のひらに置かれたのは、私の昔の消しゴムだ。  「カバーとってみて。」  言われるがまましーちゃんも私の消しゴムのカバーを引っ張った。しーちゃんのとは違って私のそれは殆ど使われていないため、するりと難なくカバーが外れた。そこに同じようにマジックで書かれた名前を読んで、しーちゃんは驚いた顔で私を見た。  そこに名前を書いた時の事は今でも忘れず、それをお守りのように毎日持っている。私がそこに書いたのは、「かわべしょう子」。しーちゃんの名前だ。  年を重ねた今互いにそれを知った時、私たちは驚きで一瞬言葉を失った。が、次の瞬間、何だか面白くなってきた私たちは同時に吹き出し、声をあげて笑った。河川敷に私たちの声が響き渡った。  「絶ったい、一緒の高校行こうね。」  笑いも落ち着くと、しーちゃんは私にそう言った。私はしっかりと頷いた。  「うん。絶対。」  互いにそう約束して笑い合った後、帰って勉強だー!と勢いよく立ち上がったしーちゃんと一緒に茜色の帰路をはしゃいで帰った。  二ヶ月後に試験を控えた私たちは、もっと大切なことを互いに知り合って現実に向かった。
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