「ひみつの消しゴム」

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 小学二年の時、あるおまじないが流行った。それは消しゴムに好きな人の名前を書くというものだ。誰かにその名前を見られれば好きな人とは縁が切れてしまうという噂の為、みんな揃って消しゴムにきっちりカバーをつけていた。そのおまじないは学校中の生徒がしていた。もちろん、しーちゃんと私も例外ではない。  当時しーちゃんには好きな男の子がいた。物静かなその子はあまり人と話さない。いつも、太陽の光が照らす窓際一番後ろの席に座って一人本を読んでいた。そんな姿を一目見た時、しーちゃんはその子の事を好きになった。その後しーちゃんは私の知らない間に消しゴムに名前を書いた為、そこに刻まれたのはその子名前だと私は確信した。  しーちゃんがその消しゴムを大事そうにしているのを見る度、何故か私の中にモヤモヤした何かが生まれた。しーちゃんがその消しゴムから私を遠ざけようとしているからじゃない。大好きなその子を見る目が、その子の話をする顔が、私は何故か気に入らなかったのだ。  その消しゴムさえなければ、しーちゃんはもうその子話をしなくなるかもしれない。  ふとそう考えた私はあの日の昼休み、しーちゃんが一瞬席を離れた隙にしーちゃんの筆箱からその消しゴムを取り出した。すっかりカバーと同じ大きさになっていた消しゴムは誰かに裸にされることを拒んでいるようで、しーちゃんは新しい消しゴムを使っていた。もう使われない消しゴムは存在を知られないようにひっそりと筆箱の端に居座っていた。あんたさえここからなくなってしまえば全て上手くいく。そう思いながら、私は即座にそれを自分のブレザーのポケットに仕舞った。
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