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大事な消しゴムがなくなった事をしーちゃんはすぐ知った。休憩が終わって授業が始まり、筆箱の中を触った時に気がついたと、次の休み時間しーちゃんは慌てた様子で言った。しーちゃんはいい子だから、誰かが取っただろうとは思いもしていない様子だった。
「きっとどこかに落としたんだよ。一緒に探そ。」
しーちゃんの慌てぶりを見た周りは言った。不安そうな表情を浮かべながらしーちゃんはみんなと、休みの時間ごとにあちこち探し回った。
ただ好きな人の名前を書いただけの古びた消しゴムなのに。
血眼になって探しているしーちゃんの姿を見て、私は不覚にもそう思ってしまった。
もちろん消しゴムはその後も見つからなかった為、しーちゃんは帰り道とても落ち込んでいた。更に、私と二人きりになった所でしーちゃんは泣き出してしまった。そんな姿を私には見せてくれる。そのしーちゃんを泣かせているのは紛れもない私だと思った時、私の手はそれが眠っている右ポケットに伸びていた。だがそれが指先に触れた瞬間、私は恐ろしさからポケットに入れた手をすぐ外に出した。
きっとしーちゃんはすごく怒るだろう。もしかしたらもう友だちでいられなくなるかもしれない。
それを聞きつけた他のみんなも一緒になって私を責めて、きっと私は一人ぼっちになってしまう。
学校の先生にもすごく怒られて、親にもこっ酷く叱られて、盗みを働く悪い子だとあだ名がついた後、この街に居られなくなってしまうかもしれない。
どんどん浮かぶこの先の良くない妄想が私の頭の中を支配した時、私は変な汗を流しながらしーちゃんの背中をさすって言葉をかけた。
「大丈夫、きっと見つかるよ。見つからなくてもしーちゃんは絶対好きな人と結ばれるから。」
私の無責任な言い訳を聞いてしーちゃんは泣き腫らした顔のまま、ぶんぶんと頭を縦に振った。
そう、たかが消しゴム。そんなものにしーちゃんの運命は左右されない。
もしあの子としーちゃんが結ばれなかったとしても、しーちゃんはこの先もっと素敵な人と結ばれる運命にあるんだろう。
そう自分に言い聞かせた私は帰宅後、その消しゴムを机奥深くに仕舞い込んで、七年間すっかり忘れることとなったのだ。
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