海奈のバレンタイン

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 そう言って、少し困り顔で笑う深也から、俺は目が離せなかった。何でかは分からないけど、すごく……キラキラして見えたんだ。  それだけじゃない。深也の控えめで、でも真っ直ぐな優しさが、俺の心を温めてくれる。目も、心も……彼に釘付けになっていた。  ……何だろう、この気持ちは。 「俺は……」 「あっ、で、でも!受け取りたくなかったら持って帰るから返してね!自分で食べるから大丈夫……」 「……そんなことしないよ」  俺はチョコの入った袋を両手で大事に包んで……深也に、精一杯の笑顔を向けた。今の俺にできることは、深也の気持ちを真正面から受け止めることだ……そう思ったから。 「ありがとな。大事にする!」 「っ……う、うん……あ、でも大事にしないで、ちゃんと食べてね?」 「うん!大事に食べるよ!」 「……その笑顔を見れただけでも、作ったかいがあった……」  深也がボソボソと何か呟くけど、よく聞こえない。 「なんて?」 「あ、な、何でもない!!じゃあ、僕はこれで……!」  そう言って、バタバタと走り去ってしまう深也。その後ろ姿を俺はぼんやりと眺めていた。  ……俺が、恋愛について答えを出せるのは、まだ先なのかもしれない。それでも、俺を大事にしてくれる深也の為に、前に進みたい。いつか、誠実な答えを出せるように……今は、自分と周りの人と、きちんと向き合おう。そう、心に決めた。  この時感じた、少し甘くて、キラキラした気持ち。俺がその気持ちの名前を知るのは、もう少し先の話だ。
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