side 桃井 花織

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「あーあ、チョコレート、徹夜で作ったのになぁ」  あたしがぼやくと、泉先輩は意外な発言をした。 「手作りなんだ? それじゃあ、俺が貰ってあげよっか? 折角だし」  うそ! 貰ってくれるの? 嬉しくなったけれど、あたしは素直じゃない。 「嫌ですよ。何で泉先輩なんかに」 「あはは、だよねぇ」 「大体、先輩めちゃくちゃ貰ってるじゃないですか。何ですか、その紙袋の束」  彼の片手を占領している憎らしい物体を、指差す。訊くまでもない。あの女の子達から貰った、大量のバレンタインチョコだ。先輩は芝居がかった調子で肩を竦めてみせる。 「あー、これ? 困るよねぇ、毎年。どうせ捨てちゃうのに」 「捨てちゃうんですか!?」 「そりゃねー。何が入ってるかも分からないのに、食べられる訳じゃないじゃん?」 「うわ、最低……」  そう言うあたしも最低だ。先輩が他の人のチョコは食べないと聞いて、喜んでしまってる。  いや、泉先輩の気を引く為に遠野先輩を利用している時点で、あたしの方がもっと最低だ。  泉先輩は、笑う。いつもの薄っぺらい仮面の笑顔。その下に、ほんの少しの自嘲を覗かせて。
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