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「……それもそうですね」
花織ちゃんはそれで納得したようで、小さく頷いた。そのまま、また何処か遠くを見るような目をして、そっぽを向く。もしかしたら、浩太のことを考えているのかもしれない。
その横顔が好きだ。決して俺の方を見ない、萎れた花に似た横顔。……不憫で痛ましくて、愛おしい。
〝俺が好きなのは、仁奈ちゃんじゃなくて、花織ちゃんだよ〟
……なんて、絶対に伝えることはないけれど。
「うわ、なにコレ炭?」
貰ったチョコレートは、真っ黒に焼け焦げた歪なハートの形をしていた。学校一の美少女と名高い花織ちゃんは、実は不器用だ。
「そんなこと言うなら、食べなくていいです!」
「うそうそ、いただきま~す」
憤慨する彼女を宥めて、一口齧った。岩石みたいに固い食感。それでも根気よく舌の上で温めていたら、焦げた塊は次第に溶けて口内に広がっていく。
「ど、どうですか?」
緊張した面持ちで、花織ちゃんが訊ねた。俺は素直に感想を述べる。
「苦い」
恋の味がした。
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