青 1

1/1
155人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ

青 1

この世に生まれた瞬間の記憶なんて何一つ覚えてないけど、自分が何を思ったのかは想像できる。 あなたに会えて嬉しいーー。 ただその一つの感情がとめどなく(あふ)れて、俺は大きな産声を上げたんだ。 「(こう)、今年も桜が咲き始めたよ。俺が弁当を作るからさ、二人で見に行こうよ…」 目の前で眠る綺麗(きれい)な人に、静かに声をかける。 あまりにも動かないから、心配して眠る顔に耳を近づけた。 (かす)かに聞こえる呼吸音を確認してホッと息を吐くことを、いったい何度繰り返しただろう。 目が隠れるほどに伸びた昊の前髪を撫でつけて、白い額に唇を寄せる。 「もう何も心配しなくていいんだ。俺が絶対に守るからさ…目を覚ましてくれよ…」 たまらず華奢(きゃしゃ)な身体を抱きしめた。 ただ、生きてそこにいてくれるだけでいいと思っていたけど、俺の名を呼ぶ声を聞きたい。俺に向かって笑う顔を見たい。 昊の甘い匂いを()ぎながら目を閉じようとして、ポツポツという音に目線を上げた。 横殴りの雨が窓に当たっている。 「なんだよ、花びらが散ってしまうじゃねぇか…」 そう呟くと、再び昊の首に顔を伏せた。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!