人減らしによって得られた没収財産をどのように分配するか、というディストピアの物語。

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 西暦21XX年。  文明は高度に発達し、人々は快適に暮らしている。  はずだった。  地球上で大きな戦争は、今のところないが(局地的な小さな戦争はある)。  人減らしの風習は今も根強く残っていた。  某国のことだった。  西暦20XX年、クーデターが勃発。政権は転覆。クーデター側が政権を掌握し、国名はシャーハーン国とあらためられた。  シャーハーン政府は、一時期途切れていた、人減らしの風習を法律として復活させた。  社会の負担軽減のためにと。  障碍者や、75歳以上の者には、安楽死が課せられた。もちろん強制的にである。  反対意見もあったが。 「法律ですから」  と容赦なく、銃の脅威を以って施設に連行し、投薬やガス室送りにより安楽死(?)させ。  その財産は、没収されて、国庫におさめられた。  その没収財産の総額は、数兆ビェンにものぼり。公共事業や福祉政策に割り当てられる。  はずだった。 「この没収財産は、シャーハーン国を治める私が50%をいただき。残り50%を各国会議員たちで分け合う」  金髪碧眼で、背も高く肩幅もある偉丈夫、元軍人にしてクーデターのリーダーであったシャーハーン国大統領の男、アックス59歳は、国会にてそう宣言した。 「私は国のために粉骨砕身し、多大な犠牲を払ってきた。それに見合う見返りがあってしかるべきではないか」  権力の頂点に立つシャーハーン国大統領アックスは、当然のようにそう宣言するのであった。しかし、 「否!」  という声が上がり、アックスは憮然とした。 「なぜだ」 「国のために粉骨砕身したのは、あなただけではない。国会にいる国会議員すべてが、あなたと同様に粉骨砕身してきた!」 「たわけ!」  アックスは言う。 「私は10人の妻と23人の子供のうち、4人の妻と19人の子を失った。今は新たな妻20人を迎え入れたが。犠牲はそれだけではない。とにかく多大な犠牲を、国のために払った。だから、没収財産の50%を私がいただくのは、当然の理(ことわり)ではないか!」 「たわけの言葉、そのままお返ししよう!」  と、国会議員を代表して言うのは、アックスの腹心であった、これは元言論人で、黒髪黒い目の中背中肉の女、ハチェット45歳であった。  ハチェットは言う。 「我ら機能不全家庭で生まれ育ち、必死の思いで生きてきた。無念さを晴らすためにも、私たちはあなたと同じように、国のために粉骨砕身してきた。私は子こそいないが、6人の夫のうち5人を失った。今は新に7人の夫を迎えたが。数の違いこそあれ、私たちも同じように犠牲を払ってきた!」  旧政府軍との戦闘は熾烈を極め、女子供も容赦なく犠牲になった。内戦の犠牲者の中には、現大統領や現国会議員の身内も多かったが。 「だからなんだ」 「あなたの取り分は10%で、90%を我らで分け合う! 人の上に立つ身ならば、模範となるべきではないか!」 「馬鹿め!」  アックスは唸った。 「私は、大統領だぞ! 最高権力者だぞ。それがなんで、下の者に分けてやらねばならぬ! 最高権力者の取り分が一番多いことこそ、理に適うことではないか」 「私利私欲のために、クーデターを起こしたのか!」 「そうだ、それがどうした!」  議場内は騒然とした。 「むしろ50%でも譲歩しているぞ。本来ならば、全てを私が、大統領として、最高権力者として、もらい受けるのだ!」 「なんという傲慢!」 「言わば言え。力こそ正義ではないか、力ある者が全てを得て当然ではないか!」 「言いましたな」 「おう、言ったがどうした!」 「ならば、私もあなたと同じようにさせてもらいましょう」 「面白い。口先だけの細腕が、どうやって私から獲るというのだ」 「ご心配なく」  ハチェットはスーツの裏のポケットに手を突っ込んだ。  すると、議場の外からどよめきが起こった。空(くう)が揺れた。 「何事だ!」 「言ったでしょう、あなたと同じことを、と」 「クーデターか!」 「はい」  ドアが蹴破られ、銃を携えた数十名の兵士がなだれ込んでいた。そして、即時に発砲した。轟く銃声は空(くう)を引き裂き、それにつられるように空(くう)を突くような悲鳴も響いた。 「うおお!」  わけもわからぬまま、アックスは撃たれ、自らがなした血の池にその巨躯をあずけるようにして倒れて、死んだ。  ハチェットは裏ポケットに常に通信機をしのばせ、いざという時になれば、自らが雇う傭兵団が国会議事堂を襲う手はずになっていた。  国会議員はチェックなしで国会議事堂に入れる。それは信頼のため、とハチェットがアックスに進言し、受け入れられたことだった。 「ふん」  ハチェットは議事堂内を見渡した。  大統領のアックスをはじめとし、その他の国会議員も皆射殺されて倒れ臥していた。 「さあ、今日から私がシャーハーン国の大統領だ! そして没収財産を全てもらい受けるのだ!」  はっはっは! と高笑い。 「お前たちもよくやった! 私はアックスのようなけちはしない、報酬は……」  言っている途中で、破裂するような銃声がした。  ハチェットは眉間から血を流し、目を見開きぶるぶると震え、わけもわからぬままに、倒れた。射殺されたのだ。  撃ったのは、褐色の肌の、筋骨隆々とした巨漢の、傭兵団長の男、ナイフ31歳だった。 「ばっきゃろう。没収財産は全部オレたちがいただくんだよ! いつまでも下っ端で、てめえのおこぼれで我慢すると思ったら大間違いだ!」  ナイフはハチェットの死体を蹴って。 「はっはっは!」  と高笑い。 「もちろん、お前たちにもたんまり褒美をやるぞ! 贅沢し放題だ!」 「おおおおぉぉぉぉーーーー!」  部下の兵士たちも、満足の雄叫び。輝かしい未来を思い描いて、顔がどうしてもにやける。 「やっぱりよ、殺して獲るのが一番手っ取り早く儲けるな! こいつらが教えてくれた通りだ。はっはっは!」  もうご満悦である。  と思ったら。  またも、空(くう)を揺らすようなどよめき。 「なんだ、他にクーデターを起こしたやつらがいるのか!?」 「団長、大変です!」 「どうした!」  外で警備に当たっていた兵士が焦って駆け込んでくる。 「人減らし法に反発する市民たちが、革命を起こしました!」 「なんだと、ざけんじゃねえ!」  せっかく一攫千金の機会を生かせたと思ったのに。 「ようし、そいつらもぶっ殺して、財産をいただこうじゃねえか!」  ナイフは部下たちを引き連れて国会議事堂を飛び出て、戦闘に加わった。  民衆たちの革命軍と、ナイフ率いる国軍(?)の戦闘は熾烈を極め。  それまでの仮の平和すら壊れ、いつ終わるとも知れぬ戦争の時代に突入した――。
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