13人が本棚に入れています
本棚に追加
男も先人に習い、谷に都合の悪い物を棄てに来たのだ。谷は得も言われぬこの世ならざる美しさがあった。それが、男には薄気味悪くて仕方がなかった。早く腕の中にある赤子を桜の下に置いて来なければ、と気が急いてしまう。
男が桜の大樹の根元につくと赤子を恐る恐る地面に置いた。その時、赤子の額を覆っていた布がはらりと落ちた。額には小さな突起がある。
男は、ひぃ、と小さな悲鳴を上げて後ずさった。その声に反応したのか、地面に置かれたのが嫌だったのか、赤子はうっすらと目を開けて男の方に顔を向けて力なく手を伸ばす。
「お…おらは関係ねぇ!頼まれてきただけだ!おめさ棄てねーと村八分にされちまう!おめのような忌み子は里さ必要ねぇ!!」
がたがたと震えながら男は叫んだ。赤子は男の方に身をよじり懸命に手を伸ばす。その刹那、風が吹き桜の花弁が吹雪くように舞い散った。
「おらを恨むのはお門違いだ!!」
男は悲鳴をあげるかのように、そう吐き捨てると赤子を置いてほうぼうの体で逃げ出した。逃げながら男は主人の言いつけをどうにか全うしたと安堵もしていた。これで、村八分にならなくて済む、と。
最初のコメントを投稿しよう!