第壱章

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**紅姫**     私が、初めて目にしたのは額を朱色に染めた小さな赤子だった。赤子という(ことば)は私には分からない。けれど、それが誰かが護らなければ消えてしまう(はかな)い物だと知っていた。 「ーー…魂封(たまふう)じは成功したようじゃな。」  不意に、(しゃが)れた声が聞こえてきた。私は声のした方に向こうと首を動かそうとしたけれど、動かすことが出来なかった。 「お前の体は木で出来てるゆえ、まだ魂が馴染まずに動けまい。山にある霊木を削りだし角を封じたお前は生き人形としてじき動けるようになろう。」  声の主は、私の返答など期待していないかのように詞を続けた。  「お前の声はわしには聴こえぬ。じゃが、わしの詞がお前に聴こえていると信じよう。」  ふっと目の前に黒い影が落ちると同時に(しわ)が色濃く刻まれた男の顔が現れた。男が私の前に移動したのだろう。 「わしの名は弥七。外法(げほう)をもちいてお前を作った。作り親としてお前に紅姫の名を与えるよう。」  弥七と名乗る男は、私に名を与え笑う。私の声が聞こえぬと言うのなら何故、名を与えるのだろう?何の意味があるのだろうか?
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