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「わーぉ…。すっげぇ量…」
これでも選別された量とは思えない。帰り道、駅のホームで電車を待つ藤倉の両手は持ちきれんばかりの紙袋で一杯だった。その中にはこいつへの想いを込めた手紙やらプレゼントやらチョコレートやらがそれはもうたくさん入っているのだろう。
そのあまりの量に「持つの手伝おうか?」と帰り際何度も提案してみたのだが、全て頑なに断られてしまった。
しかし改めて見ても凄い量だ…。これ以外に選別されてしまった分、もしかしたら渡そうとしても渡せなかったであろう分なんかも含めると、改めて藤倉という奴の人気っぷりを思い知らされる。
きっとたくさんの子達が、期待と不安に満ちながらこのプレゼントを用意したんだろうなぁ…。
そんなことを考えながらぼうっとその紙袋達に視線を落としていると、隣に並んで電車を待っていた筈の藤倉が徐にベンチに向かった。見ると両手一杯の紙袋をホームのベンチに下ろして、自身の鞄を持ち直している。やっぱり荷物、重かったのかな。断られてもちょっとくらい俺も持ってやれば良かったかも。
電車は…まだ来なさそうだな。
俺が掲示板の表示を確認していると、大量の紙袋をベンチに置いた藤倉が直ぐに俺の方へ戻って来た。紙袋、見てなくても良いのだろうか。
「…あのさ、さ、澤くん」
「うん?どした?」
俺に話し掛けてきた藤倉は珍しく、視線を落として何かを言いにくそうにしている。手は落ち着きなくもぞもぞと鞄の中で何かを探しているようだ。
「これ、その、迷惑じゃなかったら…」
「え、これ…」
そっと差し出されたのは、小さなビニールの袋に包まれたチョコチップクッキー。青いリボンにお洒落な模様が入ったビニール袋は可愛らしいがどこか大人っぽく、とてもお洒落だった。
「クッキーとか、嫌いだった?」
「ううん?好きだけど…これ、くれるの?俺に?」
きょとんとして問うと、藤倉が心なしか頬を紅潮させて小さく頷いた。まさか男から、しかも藤倉から貰えるとは微塵も思っていなかった俺は驚いて何度も聞き返してしまう。しかもこれはどうやら女の子に貰ったものの余りなどではなく、藤倉が自分で用意してくれたものらしい。
「澤くんが嫌じゃないなら、貰って欲しい」
「いや嬉しいけど何で俺に…?あぁ!友チョコってやつか!」
「んー、まぁ、そんなとこ」
友チョコってやったことなかったけどもしかしてそういうことか。成る程。
とは言えものすごいちゃんとしてるやつに見えるけど、一体どこのブランドの物なんだろう。ってかめっちゃ美味そう…。
俺は藤倉が見ている目の前で綺麗なラッピングを丁寧に解いて、クッキーを取り出して口に含んだ。するとふわりと優しい甘さと香ばしさが口一杯に広がって、幸せな気分になった。
「何コレうまっ」と思わず声に出る。そして直ぐに、目の前にいる藤倉のことを思い出した。
…やべ、妹にやるみたいにやっちゃった。今の行儀悪かったかも…。
少し気不味い思いでちらりと藤倉を見上げると、彼はこれでもかというくらい目を見開いて俺を見下ろしていた。何だかいつもより藤倉の瞳がきらきら輝いて見えるのは、俺の気のせいだろうか。
「…澤くん」
「はいっ」
薄い唇が開いてゆっくりと言葉を紡ぐ。
俺は何を言われるのか分からなくて、思わず敬語で返事をしてしまった。
「美味しかった?」
「…うん。すごく」
「それ、好き?」
「うん。すげー好き」
「そっか、そっか…」
「…藤倉?」
ほわほわという効果音でも付きそうな柔らかい雰囲気を纏って、藤倉は俺の言葉を咀嚼するように目を細めた。
するとやがて真っ直ぐに俺の目を見て、言った。
「ねぇ澤くん。…あいしてるよ」
どくん、と心臓が跳ねる。
そんなに嬉しそうな顔で、甘い声音で言われたら勘違いしてしまいそうになる。けど俺とこいつは友達だし、きっと深い意味は無いんだろうな…。
真っ直ぐに俺を見据えるその瞳の奥の熱にも気付かずに、その時の俺はそんなことを考えていた。
思えばこの日から、藤倉は俺に告白じみたことを言ってくるようになったんだっけな。
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