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「まーさおーみくんっ」
「んー?なん、んむっ?!」
ソファに凭れて「うわぁ、今年も売り場が真っピンクだなぁ」なんて思いつつニュースを見ていると、不意に後ろから呼び掛けられた。馬鹿な俺は今年も何の疑問も抱かず、いつもよりずぅっと悪戯っぽい無邪気なその声に素直に反応してしまった。
振り返った途端一瞬見えた、うっそりと笑う嬉しそうな変態の顔。そうして突然口を塞がれて行き場を無くした文句ごと、互いの唾液と一緒に混ざって飲み込まれてしまう。
「…んっ、ふふ」
「ん、んぅ…んっ?!」
咥内に熱い生き物のような舌が忍び込んで来たと思った途端、ふわりと広がる優しい甘い香り。舌にも何か小さな塊がころころと押し付けられて、咥内にとろりと甘さを広げていった。
「んっ、…ふぅ」
「ん、んぅ、ちょ…、んぁ」
その甘さを押し付けるように、広げるように咥内全体を舐め回されてから漸く顔が離される。長く深いキスが終わった時にはもう俺は息も絶え絶えで、荒い呼吸を整えながら変態野郎の甘く緩みきった顔を睨み付けていた。
「ん、…はぁ。ふっ、ふふふっ」
「ふっ、は、はぁ、わ、笑うなこの、へ、んたいっ!だ、大体お前!毎年毎年もっと普通に渡せないのかっ?!」
「だ、だって、ふふっ、毎回同じ手に引っ掛かるから可愛くて、ごめ、ふふ」
「こんの…馬鹿ッ!」
「いってて、ゴメンて!ほら、ちゃんとチョコチップクッキーも用意してるから。ほら、あーんして」
「自分で食うよっ!」
笑いを堪えようともしない藤倉をクッションでバシバシ叩くと、あやすようにクッキーが差し出された。子供扱いされたみたいで更にムカついた俺は、その手からクッキーを奪い取ってまだ甘さの残る口に頬張った。途端、さっき舐めさせられたチョコレートよりも幾分優しい甘さと香ばしさが口一杯に広がって、思わず「うまっ」と声に出してしまった。
それを聞いた藤倉はやっぱり嬉しそうに少し頬を紅潮させながら、「良かった」と安堵の声を漏らす。
「これ最初に貰った時はどっかの店のやつかと思ってた。…まさかお前の手作りだとは」
「美味しいって言ってくれて本当に嬉しかったよ。澤くんの口に合うように何回も練習したっけなぁ」
「あ、ありがと。練習って大袈裟な…。嬉しいけど、俺今年もそんなに大したもん返せねぇぞ」
「そんなのもう、まさおみくんのホワイトチョコでじゅうぶっ、いたっ、ゴメンて」
「下ネタ止めろこの変態っ!いくら顔が良いからって言っていいことと悪いことがあるっ!」
奴が言い終わる前にぼすっと顔面に思いっ切りクッションを投げつけてやった。全くこいつは…。高校生の時よりずっと、変態具合に拍車がかかってやがる…っ!
なんて腹を立てているとまた、ふわりと甘い香りが鼻腔を擽った。ぎゅうっと抱き締めていたもうひとつのクッションが奪われて、恐らく真っ赤になっているであろう俺のみっともない顔が真正面から覗き込まれてしまった。どんなに下品なことを言ったって許してしまいそうになるほど、吸い込まれそうなこの瞳が美しくて憎らしい。
いつの間にか俺の隣に腰を下ろしていた藤倉は片手で俺の腰を引き寄せ、もう片方の手で優しく頬を包み込んでくいっと上を向かせた。そうしてこの変態は、今年もチョコレートよりずぅっと甘い笑顔で囁くのだった。
「さわくん、あいしてるよ」
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