地獄行きメーター

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 無敵のテツオ。地獄行きメーターを持ちながら、そのアップダウンに左右される事なく悪事を働き続ける男がいた。10代の頃から万引きや恐喝、いじめや暴力など思いつく限りの悪さをした。メーターは上限に達し、地獄行きは決まっているはずなのに、テツオは悪さをやめなかった。人々はテツオを『地獄を恐れない男』と呼んだ。テツオが悪事をやめない理由。それは…      派手な格好で街を歩くテツオ。そのイカつい姿に、皆が道を開ける。テツオの手には、数枚の紙幣が握られていた。   「チッ!あいつ、こんだけしか持ってねぇじゃないか。次は誰から頂こうかねぇ」    今しがた、気弱そうな学生から金を巻き上げてきた所だ。おもむろに、地獄行きメーターを取り出すテツオ。   「やっぱりね。どんだけ好き勝手やっても、俺のメーターは上がらねぇどころか減ってやがる。地獄に近付くのが怖くて反撃するような奴もいねぇし、ホントいい世の中になったもんだぜ!」    万引きし続けて小さな商店を潰した時も、大勢の人間から金を巻き上げても、学校を辞めさせるまで同級生をいじめた時も、教師に暴力をふるって入院させた時も、テツオのメーターが上限に達する事はなかった。5を超える事はあっても、次に見た時には0付近まで下がっている。テツオの地獄行きメーターは故障していた。もちろんそれを申告する事なく、反対にテツオは安心して悪さを続け、ありとあらゆる犯罪に手を染めた。    そんなテツオも病には勝てず、酒を浴びるように飲み続けたのが祟って体を壊し、死の淵にいた。しかし、テツオは恐れなかった。地獄行きメーターがほぼ0を示していたからだ。   「これなら、極楽行きどころか仏にだってなれそうだな…」    テツオはほくそ笑むと、安心して死んだ。
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